食材のクオリティーをそのままに原価率を下げることに成功した一杯(筆者撮影)
食材のクオリティーをそのままに原価率を下げることに成功した一杯(筆者撮影)

 ラーメンは評価されてお客さんも根付いてきた。だが、原価率を下げれば納得のいくラーメンを提供できない。食材のクオリティーを下げずにいかに原価率を抑えるか。それだけが「ろく月」のテーマだった。

 試行錯誤の末、湯田さんが注力したのは、食材を「捨てない」ことだった。湯田さんは言う。

「例えば野菜なら、具材には使えないような端っこの部分をどうやって他に使えるかを考えました。ネギの端っこは乾燥させてスープに入れると豚の臭みを抑えてくれます。チャーシューを作るのに使ったしょうゆは、そのままメンマに回せばもう一度使えます。食材にはお金を惜しみたくなかったので、とにかく全てを有効活用することで原価を抑えていきました」

 こうして19年にようやく利益が出るようになり、現在は安定した店舗運営をしている。SDGsの考え方にもつながるような食材利用で危機を乗り切ったというのは、とても興味深い事例である。

「福籠」の畑谷さんは、同じ浅草橋を盛り上げる湯田さんが刺激になっているという。

「開業時期もほぼ同期で、最初の頃はよくお互いの店を食べに行きあっていました。湯田さんは仕事がとても丁寧で探求心にあふれています。浅草橋はものづくりの街。下町感もありながら、若い人も多く新しい風が吹くいい街です。これからも一緒にこの街を盛り上げていきたいです」(畑谷さん)

「ろく月」の湯田さんにとっては、畑谷さんはいつも励ましてくれる兄貴的存在だという。

「優しくていつも励ましてくれます。食べるたびに『どんどんうまくなるね』と褒めてくださり、そのたびに自分の目つきも変わっていきました。これからも仲良く浅草橋を盛り上げていきたいですね」(湯田さん)

 同じエリアでの、同時期の開業。本来はライバルになりそうな存在だが、お互いが刺激となり、浅草橋のラーメンシーンを盛り上げている。両店のラーメンはこれからもさらにおいしくなっていくことだろう。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

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井手隊長

井手隊長(いでたいちょう)/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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