尖塔高51mと三塔中で一番高い「クイーンの塔」を背景にして山下埠頭に向かう記念蒸気列車。横浜港~山下埠頭(撮影/諸河久:1980年6月15日)
尖塔高51mと三塔中で一番高い「クイーンの塔」を背景にして山下埠頭に向かう記念蒸気列車。横浜港~山下埠頭(撮影/諸河久:1980年6月15日)

 2019年8月に掲載した横浜市電編では、本町線沿線に所在する「ジャックの塔」と呼ばれる横浜開港記念会館を紹介している。

 残った一塔が「クイーンの塔」と愛称される横浜税関関本庁舎の建物だ。1934年に竣工しており、イスラム寺院を彷彿とさせる丸みを帯びた青緑色の銅板屋根と西欧建築様式のコラボレーションは「クイーンの塔」の呼称にぴったりのイメージ。税関本庁舎の周辺に市電の路線は近接しなかったが、山下臨港線と呼ばれた国鉄貨物線の高架線がその眼下を走っていた。

 路面電車の話題から少し逸脱するが、高島貨物線の横浜港駅(よこはまみなと)と山下埠頭貨物駅を結ぶ山下臨港線は1965年に敷設された。かつて横浜港駅には「ポートトレイン」と呼ばれた外国航路連絡列車が東海道本線から乗り入れていた。

 山下臨港線は当初からディーゼル機関車牽引の貨物列車が運転されていたが、1980年6月、横浜開港120周年と横浜商工会議所創立100周年を記念した蒸気列車が東横浜~山下埠頭間4500mで運転された。牽引する蒸気機関車は、前年に復活した山口線蒸気列車の予備機として整備されたC581号機が充てられた。

 筆者は写真専門学校時代の同級生の父君から「私の事務所から横浜税関の本庁舎を背景にした山下臨港線が上手く撮れそうなので、いらっしゃいませんか?」というお誘いを受けた。

 運転当日に向かったのは、中区海岸通に所在する大桟橋共同ビルだった。件の父君が経営される三洋船舶の事務所にお邪魔し、窓際から狙ったのが次のカットだ。エキゾチックな「クイーンの塔」が蒸気列車の煙に隠れることなく、きっちりフレーミングされた作品に仕上がった。ちなみに、山下臨港線は1986年11月に廃止され、高架線跡は「山下臨港線プロムナード」として遊歩道路に転用されている。

■撮影:1968年6月23日

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諸河久

諸河久

諸河 久(もろかわ・ひさし)/1947年生まれ。東京都出身。カメラマン。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。「諸河 久フォト・オフィス」を主宰。公益社団法人「日本写真家協会」会員、「桜門鉄遊会」代表幹事。著書に「オリエント・エクスプレス」(保育社)、「都電の消えた街」(大正出版)「モノクロームの東京都電」(イカロス出版)など。「AERA dot.」での連載のなかから筆者が厳選して1冊にまとめた書籍路面電車がみつめた50年 写真で振り返る東京風情(天夢人)が絶賛発売中。

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