福光恵
「店を辞め、テイクアウトの配達員などで何とか食いつないでいた昨年末のことです。そんなどん底に追い打ちをかけるように、愛犬マロンの体にしこりが見つかるんです。がんでした」
手術はしたいけど、お金がない。そんな相談を友人にすると、提案されたのが、少人数の「チャリティービリヤニパーティー」だった。大鍋で作ったできたてのビリヤニは出すが、食べるのは密にならない少人数で。残った分は、テイクアウトなどで提供する。そんなニューノーマルスタイルでビリヤニパーティーが再開した。
一方、9カ月間のビリヤニ切れにしびれを切らせていたパーティーの常連ファンたちは、再開されたパーティーに殺到した。部屋でひざを抱えて引きこもっていた大澤さんは、多くの人々に自分のビリヤニが求められていることにあらためて気づき、専門店の開店を決意する。それがクラウドファンディングで資金調達が大爆発した、「ビリヤニ大澤」だった。
と、長くなったが、それもそのはず。ビリヤニハウスのキッチンで、マトンビリヤニを作りながら大澤さんが語ってくれたそんな「沼」話……。いや、サクセスストーリーに聴き入って、もう3時間半。いよいよ、手塩にかけた10人前のビリヤニが炊き上がった。
■結婚祝いにビリヤニ
ビリヤニの作り方は、店や料理人によっていろいろ。大澤さんのビリヤニは、肉類、オニオン、スパイス、米を別々に調理し、最後に合体させるという5工程を、同時並行でこなす。
「例えばビリヤニマサラ（スパイス）は、しっかり火を入れてまとまった深い味に仕上げつつ、その後は鍋で長く煮込まないほうが、香りが立つ。そうやってそれぞれの素材のおいしさが一番引き立つ加熱時間を数年かけて研究、時間差でベースの鍋に入れるようにしています」（大澤さん）
この日のパーティーの定員は、SNSで呼びかけたプラチナチケットをゲットした7人。「昨年結婚したので、大澤さんにビリヤニでお祝いしてもらった」と話す20代の新婚カップルや、ビリヤニハウスの近くに住む男性会社員（62）、3千人以上の会員を擁するFacebookの「カレー＆ビリヤニ同好会」の管理人女性ら、さまざまなプロフィルの「沼」の住人たちが集まった。
ミッツ・マングローブ
姜尚中
ラリー遠田
