昨年10月には大丸心斎橋店でコラボイベントを実施(写真/文さん提供)
昨年10月には大丸心斎橋店でコラボイベントを実施(写真/文さん提供)

 文さんは言う。

「多くの食品関連事業者が経済的な打撃を受けている一方で、『もったいないものをできる限り減らしたい』『買うことで経済を支えたい』と考える人は着実に増えています」

■冷凍技術生かして削減

 本来は百貨店に並ぶほどの一級品のフルーツが、少しの傷や豊作、完熟していることが理由で廃棄されている。特殊冷凍機の専門商社「デイブレイク」(東京都品川区)はそうした作物を仕入れ、新鮮な状態で急速冷凍させることで長期保存を実現。素材の旨味や栄養価を維持した冷凍フルーツ「HenoHeno」を19年から通販サイトなどで販売している。野菜を使ったスムージーも商品に加え、同社がこれまでに削減したフルーツや野菜のロスの総量は約17トンに上る。

 木下昌之社長(42)は「高品質なおいしい食材をいつでもどこでも食べられる時代にしたい。その努力を続けることで食品ロス削減に寄与できると思っています」と話す。

「食品ロス削減のため助けてください」と消費者にお願いしたり、社会貢献を強調したり、割安を売りにするのでもない。もともと高品質の生鮮食料品を、添加物を入れず鮮度よく長期保存できる状態で提供すれば、扱いやすさや味にこだわる消費者は自ずとついてくる。ポイントは鮮度のいい段階で冷凍すること。そのためフルーツや野菜の生産地で、冷凍加工場の設置やシェアを進めている。

木下昌之さん/デイブレイク社長/1978年神奈川県横須賀市生まれ。祖父の代から続く地元の老舗冷熱会社の施工管理士として14年間勤務した後、自分にしかできないビジネスを模索し、2013年に「デイブレイク」を設立(写真/本人提供)
木下昌之さん/デイブレイク社長/1978年神奈川県横須賀市生まれ。祖父の代から続く地元の老舗冷熱会社の施工管理士として14年間勤務した後、自分にしかできないビジネスを模索し、2013年に「デイブレイク」を設立(写真/本人提供)

 父親が経営する冷熱会社で働いていた木下さんは30代のとき、「もっと人を幸せにする仕事をしたい」と新規事業のヒントを求めて東南アジアを訪ねた。そのとき、露店に並ぶフルーツの売れ残りが大量廃棄されている実情を知った。帰国後、これまでに培った冷凍技術を生かし、食品ロス削減に貢献できるビジネスの構想を練った。

■多業種との連動が重要

 13年にデイブレイクを起業した木下さんは、急速冷凍機を使い食材の細胞膜を破壊せずに冷凍し、最適な保存・解凍方法まで独自のノウハウを確立。冷凍コンサルティングを手がける傍ら、全国約300の生産者を訪ね、確かな品質を誇るパートナーを探した。

 コロナ禍で特殊冷凍機のニーズは高まっている。これまで導入検討の問い合わせは月平均100社程度だったのが、魚や肉を扱う生産者や飲食店を含め約500社にはね上がった。この1年で売上高は数倍に伸びた。

 木下さんはこう展望する。

「これから大事なのは多くの業種との連動だと思っています。私たちのノウハウと考え方を全国に伝えることで社会の変化を加速できると確信しています」

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2021年3月29日号

著者プロフィールを見る
渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

渡辺豪の記事一覧はこちら