「たかはし」の焼きあご塩らー麺は一杯800円(筆者撮影)
「たかはし」の焼きあご塩らー麺は一杯800円(筆者撮影)

■新潟から上京して起業 女性ラーメン店主が描く「理想の姿」

「焼きあご塩らーめん たかはし」。2015年、新宿・歌舞伎町に彗星のごとく現れ、新潟ではポピュラーな“あごだし”を使ったラーメンで大人気の店だ。

 店主の高橋夕佳さん(38)は新潟生まれ。地元の新潟大学を出て、新卒で東京の不動産会社に就職する。

 しかし、入社から半年後、妊娠が発覚。これから社会人生活が始まるという時期だったが、退職することになる。新潟に戻り、学生時代から付き合っていた相手と結婚する。

 農業を営む夫の実家に同居し、毎日ゆったりとした時間が流れていた。しかし、徐々に世間から取り残されているのではないかという感覚に襲われる。子育ては充実していたが、不安な気持ちはふくらんでいった。

「たかはし」店主の高橋夕佳さん。店舗にも熱心に足を運ぶ(筆者撮影)
「たかはし」店主の高橋夕佳さん。店舗にも熱心に足を運ぶ(筆者撮影)

「やっぱり東京に出たいなと思ったんです。ただ、今からでは大きな会社にも入れないし、自分でやるしかないなと思いました。そのときから起業が目標になりました」(高橋さん)

 そこで高橋さんが目をつけたのがラーメンだった。新潟はラーメンにトビウオの出汁をとったあごだしを使う文化があり、生産も盛んだ。とても美味しいのに、全国的にはあまり有名ではなく、都内にもあごだしを謳う店はそれほどなかった。これを東京に持っていこう。高橋さんの心は決まった。

 突然の起業宣言に青ざめる家族を説得し、08年に夫と子どもたちとともに上京。まずはラーメンの味作りとオペレーションを学ぶべく、夫に有名店でアルバイトをしてもらいながら、高橋さんは子育てと起業準備に勤しむ。3人目の子どもが生まれる少し前だった。

 金融機関から借り入れができず、身内から350万円を集めて、茗荷谷で居抜きで開業する。こうして13年7月、「らー麺 たかぎ」がオープンした。奇しくも、のちにミシュランガイド東京で一つ星に輝く「Japanese Soba Noodles 蔦」や「創作麺工房 鳴龍」とほぼ同時期のオープンだった。

 新潟の焼きあごを使った上品な塩ラーメンを提供していたが、オープン当初は全く売れなかった。1年半ぐらいは味が安定せず、試行錯誤。人気が低迷し、塩ラーメンをメニューから外さざるを得ない時期もあった。

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タレ、スープ、油も全部変えた!