投票所前にて(撮影/今井一)
投票所前にて(撮影/今井一)

■SNSで否定的な言葉

 各社の出口調査では、7割ほどの人が「維新の行政運営」や「吉村知事のコロナ禍対応」を評価すると答えながら、そのなかの3割強が「賛成に投票してください」という吉村らの訴えに応えず反対票を投じている。これは、維新、吉村に対する実績評価や好き嫌いと「大阪市廃止・特別区設置」に対する自身の判断を分けて考え選択した大阪市民が相当数いたということだ。まさにそれこそが住民投票で確保されるべき姿勢で、私は特にこの点を高く評価したい。

 だが、勝利した反対派陣営から「低水準の住民投票だった」「金の無駄遣い」「市民を分断しただけ」といった住民投票否定の言葉がSNS上に多数放たれている。これは、自分たちが得た「大阪市廃止」の是非を決める権利を否定する考え方で、とても残念なことだ。

 なるほど、議員と市長による「テレビ討論」は、議論が噛み合わない一方的な主張のぶつけ合いとなったし、賛否両陣営が作製して配ったチラシなどに記された内容には不透明なものが多かった。だが、そういうなかでも、投票権者である市民の多数が、能動的に情報を得る努力をしたし、最終決定権を行使する主権者としての自覚をもって投票に臨んだ。また、いがみ合っていたのは政党関係者と一部の運動家だけで、大多数の市民は賛否を理由に対立していないし、分断されてもいない。

 反対派の運動にかかわった市民のなかには「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」的な気持ちで、維新が主導した住民投票やその制度の否定に傾いている人がいる。そういう方々には「大阪市を廃止するか否か」について一人ひとりが真剣に考え、主権者として決定権を行使し、議会の可決を廃案にしたその事実について、市民自治、住民主権の視点から深く考えていただきたい。

大阪都構想支持政党別の「賛否」。朝日新聞11月2日付朝刊から。投票日の11月1日に実施した出口調査(AERA2020年11月16日号から)
大阪都構想支持政党別の「賛否」。朝日新聞11月2日付朝刊から。投票日の11月1日に実施した出口調査(AERA2020年11月16日号から)

■国民の意思は操れない

 国会内の明文改憲派の中には、今回の結果を見て、国民投票で多数を制することの難しさを再認識した議員がいるはず。たとえ衆参各院で改憲の発議を可能とする圧倒的な数の議席を得ても、思い通りに動かせるのは自党の議員だけで、最終決定権を持つ1億人の主権者・国民の意思を操ることなどできない。

 改憲派はそのことをよく理解して「発議=国民投票の実施」に慎重になっているが、護憲派の側は多数の国民が改憲を選択をする恐れがあると考えて国民投票に反対。護憲・改憲両派が、それぞれの思惑で国民投票に足を踏み出さない日本。これでは、憲法や自衛戦争・軍隊保持について、一人ひとりの国民が主権者として真剣に向き合い、考える機会はやってこないだろう。(文中敬称略)

(ジャーナリスト・今井一)

※AERA 2020年11月16日号