田上家のチャーシューメンは一杯850円。冷凍食材は使わず、すべて国産にこだわる(筆者撮影)
田上家のチャーシューメンは一杯850円。冷凍食材は使わず、すべて国産にこだわる(筆者撮影)

 日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。横浜・弘明寺で人気の真っすぐすぎる横浜家系ラーメンを提供する店主の愛するラーメンは、14年もの間自家製麺を貫き続ける職人の紡ぐ極上の一杯だった。

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■チェーン店による“資本系”参入で家系ラーメン店に逆風

 横浜市南区の鎌倉街道沿いにある「横浜ラーメン 田上家」。こだわりの濃厚な横浜家系ラーメンを提供しており、開店5年ながら、エリアでも屈指の人気店となっている。

田上家/〒232-0056 神奈川県横浜市南区通町3-48/11:00~14:00/17:00~23:00※売り切れ次第終了、火曜定休/筆者撮影
田上家/〒232-0056 神奈川県横浜市南区通町3-48/11:00~14:00/17:00~23:00※売り切れ次第終了、火曜定休/筆者撮影

 店主の田上州(しゅう)さん(45)は宮崎県出身で、これまでに寿司、和食、イタリアンなど数々の飲食店を経て、ラーメンの世界に飛び込んだ。数多あるラーメンの中でも、横浜家系の総本山「吉村家」の味に虜になった田上さん。家系を極めたいと近所の家系ラーメン店で8年間の厳しい修行の後、独立した。

 横浜家系ラーメンの世界は広くて複雑だ。1974年に「吉村家」が誕生して以来、その流れを汲む店だけでなく、「吉村家」にインスパイアされた大手チェーンによる“資本系”と呼ばれる店が数多く生まれ、今や飽和状態にある。チェーン店の参入は個人店にとって逆風となり、競争に負けて閉店に追い込まれる店も少なくない。田上さんはその中でどう他店舗に差をつけているのか。

「『吉村家』さんの味に衝撃を受けて家系ラーメンでやっていこうと決意しました。だからこそ、『吉村家』さんが40年間育ててきたものを大事にしたいという思いがあります。家系ラーメンの工程は簡単に思われがちですが、濃厚でガッツリしているから作り方が雑でいいということではありません。見た目を家系に似せただけのラーメンもありますが、自分は本質を追求したいんです」(田上さん)

「いいものをちゃんと使う」というのが、田上さんの考え方だ。冷凍食材は使わず、すべて国産にこだわる。シンプルだからこそ細部にこだわる。一つの工程ごとに生まれた小さな違いが、丼の中では大きな差につながっていく。数々の飲食の現場で培った技術をすべてラーメンに落とし込んでできたのが、「田上家」の一杯なのだ。

店主の田上州さんは家系ラーメンに並々ならぬ思いを持つ(筆者撮影)
店主の田上州さんは家系ラーメンに並々ならぬ思いを持つ(筆者撮影)

 特に人気なのがチャーシューメンだ。吊るし焼窯で焼き上げたしっとりとした大ぶりのチャーシューは、スモーキーな香りがして、「吉村家」の流れを感じさせながらも独自の美味しさを放つ。いまや100人来店すれば60人がチャーシューメンを注文するほどの人気だ。

「地元の宮崎ではチャーシューメンって食べたことがなかったんです。上京して初めてチャーシューメンと出会って、『これはごちそうだ!』とはしゃいだのを思い出します。そんな気持ちになれるチャーシューメンを目指して作っています」(田上さん)

 そんな田上さんが愛する一杯は、同じ横浜で14年前から自家製麺を貫き続ける名店の紡ぐ一杯だ。

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井手隊長

井手隊長

井手隊長(いでたいちょう)/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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見切り発車で開業して14年!