ザ・ドリフターズ「ドリフのビバノン音頭」ではサザンのメンバーが勢揃いした(写真/ビクター提供)
ザ・ドリフターズ「ドリフのビバノン音頭」ではサザンのメンバーが勢揃いした(写真/ビクター提供)

天は二物も三物も与える

柴:サザンオールスターズではサザンの桑田さんですし、ソロも桑田さんの世界観を追求するものです。でも「ひとり紅白」の桑田さんは、そのどちらでもない。ただ「歌い手」としての純粋な桑田佳祐を感じました。それって、ものすごい身体性の高さだと思います。

渡辺:天は二物も三物も与えてますよね。中盤から後半は、ニューミュージックやJ-POPも歌うじゃないですか。それを聴いていても桑田佳祐がにじんでいる。全体に桑田節になっている分、いい曲だなあって再発見する曲もありました。“桑田マジック”が効いてるんです。

桑田佳祐が「ひとり紅白歌合戦」で歌った昭和と平成(AERA 2019年6月10日号より)
桑田佳祐が「ひとり紅白歌合戦」で歌った昭和と平成(AERA 2019年6月10日号より)

柴:渡辺さんのおっしゃる通り、J-POPと言われる曲が歌われても、時代が変わったという感じがあんまりないんですよね。不思議とJ-POPを聴いても「今の曲(現代)になった」って思わないんです。「いい曲が続いている」「歌い継がれる曲が並んでいるなあ」って。確かに、全ての曲を桑田さんがひとりで歌っていて、同じバンドが演奏するスタイルが続いているから、というのもあります。ですが、同じ養分から出てきている、同じ根っこで育っているという、そんな感じが、特に平成からの曲にはあります。

渡辺:本当に不思議な感覚になりますね。

歌謡曲の再評価

渡辺:例えばブラジルの音楽を聴いていたりすると、すごくサウダージ(郷愁)を感じるじゃないですか。その人間の持っている自分の弱いところとか、本当は思い出したくないこととか。そういうものをうまく包んでいる何かがあって、そこに響く声だったり曲だったりするなあってことだと思うんです。

しば・とものり(左)/1976年生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。著書に『ヒットの崩壊』など、共著に『渋谷音楽図鑑』がある/わたなべ・たすく(右):1959年生まれ。自称「街の陽気な編集者」。ナビゲーターを務めるJ-WAVE「Radio DONUTS」では番組DJも担当している(写真/慎芝賢)
しば・とものり(左)/1976年生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。著書に『ヒットの崩壊』など、共著に『渋谷音楽図鑑』がある/わたなべ・たすく(右):1959年生まれ。自称「街の陽気な編集者」。ナビゲーターを務めるJ-WAVE「Radio DONUTS」では番組DJも担当している(写真/慎芝賢)

柴:僕もそう思います。確か、テレビのインタビューで桑田さんが「少年時代は洋楽に憧れて育ったから、歌謡曲を大人になって聴いて再発見した」って言われていました。つまり、桑田さんは、歌謡曲はその時代の洋楽のエッセンスを咀嚼(そしゃく)して吸収して作られているということを再発見したということだと思うんです。歌謡曲には、その時代のその向こう側にある海外のいろんなエッセンスが入っている。歌謡曲って日本の文化だけど、海外への憧れがずっとあった。そこに、一本筋が通っているという風に感じました。

渡辺:トップのアーティストはみんなそうですけど、ライブでもテレビでも常にカメラという存在がありますよね。どこからどう撮られていて、どのタイミングでどう動くのか、桑田さんはそういう諸条件を全部飲みこんで、このレベルのパフォーマンスができてしまうというクオリティーがただ者ではない。

次のページ
ライブなのに番組感