らぁ麺やまぐち(移転後)/東京都新宿区西早稲田3-13-4/火曜~金曜は11:30~15:00、17:30~21:00。土曜・日曜・祝日は11:30~21:00営業。各日売り切れにより早仕舞いあり/月曜定休(祝日の場合は営業、翌日休業)/筆者撮影
らぁ麺やまぐち(移転後)/東京都新宿区西早稲田3-13-4/火曜~金曜は11:30~15:00、17:30~21:00。土曜・日曜・祝日は11:30~21:00営業。各日売り切れにより早仕舞いあり/月曜定休(祝日の場合は営業、翌日休業)/筆者撮影

「アルバイトで入って1カ月もしないうちに、レシピを覚えて逃げ、お店を開いた人もいます。一時は人間不信になりました。同じようなラーメンばかりで“お腹いっぱい感”もあるかもしれませんが、鶏清湯はシンプルが故にごまかしが効かない。シンプルなものをいかに“ラーメンらしく”仕上げるか、ここに職人の腕が見えてきます」(山口さん)

 そこで山口さんは、スープに使う鶏の銘柄を変えることにした。美味しいラーメンを作ることで地元にも貢献しようと、山口さんが生まれ育った会津の地鶏を使うことに決めた。身体が小さい会津地鶏は供給数も少なく、安定して仕入れることが難しい。だが、何度も現地に通ってその思いを伝え、定期的に入手できるようになった。

 こうして会津地鶏を使ってパワーアップした「やまぐち」のラーメンだが、山口さんの向上心は留まらなかった。18年9月、お店を“斜め向かい”に移転するのである。

 もとのお店は厨房が奥まったところにあり、お客さんの声が聞こえにくかった。古くなっていた冷蔵庫を新調したいタイミングでもあった。そんな中、斜め向かいの物件が空いたので、思いきって移転することにしたのだ。他のエリアに移ることも考えたが、自分を育ててくれた高田馬場に腰を落ち着けようと決心した。

 新店舗は念願のオープンキッチンで、お客さんの目の前でラーメンが作れるようになった。そして、もう一つの大きな変化は、「地鶏専用のチルド庫」を作り、会津地鶏を最高の状態で保存できるようにしたことだ。これで毎日新鮮なスープが炊ける。今は、毎朝5時からスープを仕込んでいるという。

「会津地鶏を使うようになって、地元に支えられているという思いがさらに強くなりました。もっとラーメンを美味しくしていきます」(山口さん)

店主・山口さんのこだわりは続く(筆者撮影)
店主・山口さんのこだわりは続く(筆者撮影)

 15年9月には東陽町に2号店「らぁ麺 やまぐち 辣式」をオープン。看板メニューの「麻婆まぜそば」は業界に革命を起こし、こちらもミシュランガイドのビブグルマンを獲得した。同グループ内で2店舗の受賞は快挙といえる。今後は味噌ラーメンなどにも挑戦したいという。

「1号店の『やまぐち』を洗練させつつ、色んな味のラーメンで新たなお店を出したいです。まずは人を育ててからですけどね。これからは、レシピ開発から弟子に任せるお店があってもいいと思っています。ラーメンで独立するのは本当にリスクが高いので、『やまぐち』の中でチャレンジできる環境を作ることも私の仕事なのかなと思っています」(山口さん)

 そんな山口さんが愛するラーメンは、和食を極めた職人がその英知の全てを丼に注ぎ込んだ一杯だった。

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奥深さを追求した一杯