師匠の渡辺さんからは「同じ魚介豚骨で独立するのはダメ」と言われていた。自分の味を作り上げてから独立しろという思いからだ。しかし齋藤さんはどうしても魚介豚骨で独立したかった。

「この世界に入ったのは『渡なべ』が好きだから。『名を汚さぬよう、美味しいラーメンを作ります』と頭を下げました。最後までOKとは言ってくれませんでしたが、押しが強すぎて半ば諦めたような形で独立を許してもらいました」(齋藤さん)

 こうして13年3月「RAMEN GOTTSU」はオープンした。実家と自宅からアクセスが良いからと練馬を選んだ。街が大きい割にはラーメン店が少なく、狙い目だということもあった。店名の由来は、学生時代見た目が“ゴツかった”齋藤さんのあだ名である。

RAMEN GOTTSU/東京都練馬区練馬1-29-16 1F、営業時間:昼11:00~15:00、夜18:00~21:00。定休日:日曜日の夜、月曜日と第3火曜日(筆者撮影)
RAMEN GOTTSU/東京都練馬区練馬1-29-16 1F、営業時間:昼11:00~15:00、夜18:00~21:00。定休日:日曜日の夜、月曜日と第3火曜日(筆者撮影)

 オシャレなカフェのような内装は、友人のデザイン会社に頼んで作ってもらった。もともとイタリアンレストランだったため厨房などの設備も整っていたが、居抜きにはせず、あえて作り直した。一人でお店を回すつもりだったこともあり、ずっと店にいたいと思える空間を作ったのだという。

 オープン当初は地元の人やラーメンフリークが集まったが、2カ月目には客足が一気に落ち着いてしまった。駅から5分の立地ではあるが、人通りも少なく、作りがオシャレすぎてラーメン店と気づかれないこともしばしば。1日30杯しか売れない日もあったという。

お金もたくさんかけたのに、お客さんが来なくて涙が出そうでした。この先どうなっちゃうんだろうという不安でいっぱいでした」(齋藤さん)

 数少ない常連を飽きさせないよう限定ラーメンを作るなど、試行錯誤の日々が続いた。

「GOTTSU」の麺箱(筆者撮影)
「GOTTSU」の麺箱(筆者撮影)

 その後、地元タウン誌の新店紹介ページで取り上げられたことをきっかけに、お客さんは少しずつ増えていった。練馬は東京の中でもローカル感が強く、「GOTTSU」は常連さんで支えられていた。口コミは広がり、業界最高権威といわれるTRYラーメン大賞の2013-2014新人大賞ではMIX部門2位に選ばれた。

「GOTTSU」のラーメンは魚介豚骨ながら、”濃厚”という言葉で片付けるには申し訳ないぐらいの品の良さがある。齋藤さんは濃厚系ラーメンを食べた時の罪悪感を排除した魚介豚骨を目指した。通常の濃厚系でよく使うゲンコツ(大腿骨)ではなく背骨と鶏ガラを使い、ドロドロ感や脂感をなくした。くどさがなくなり、クリーミーで鶏白湯(とりぱいたん)に近い味わい。“濃厚”ではなく“濃密”というのが正しいだろう。

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14年夏の転機