たまには苦手に挑戦もいいものだ?(イラスト:サヲリブラウン)
たまには苦手に挑戦もいいものだ?(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 約5年ぶりに地上波のテレビに出演しました。NHK総合の「インタビューここから」という番組です。アナウンサーが自ら企画と制作を行うインタビュー番組で、今回は杉浦友紀アナウンサーがジェーン・スーに興味をもってくださり、実現しました。

 私はテレビがあまり得意ではなく、普段はほとんどお断りしています。なんに関してもやらない理由はいくつでも挙げられるもので、私にとってのテレビもそう。ラジオで声を「録られる」のはまったく苦ではないのに、何台ものカメラで自分を「撮られる」のは苦手。短い時間でスパッと言い切ることを求められているような気がするのも苦手。嗚呼、苦手な理由って言い訳がましくて気が滅入りますね。

 にもかかわらず今回お受けしたのは、杉浦友紀アナウンサーが私のポッドキャスト番組「OVER THE SUN」の熱心なリスナーであるため私がどんな人間かをよくご存じで、最初の本が出版されて今年で10年になるので、普段はやらないことにチャレンジしようと思ったからです。居心地の良い場所で慣れ親しんだことばかりやっていると、傲慢になる気がします。

 約25分の番組でインタビュー放映時間は20分前後。しかし、そのために行ったインタビュー撮影は2時間半でした。ジェーン・スー初見の視聴者にも、そうでない人にも伝わる構成にするため入念な下調べを行ってくださった杉浦アナウンサーには頭が下がります。にしても、すっぴんでパーッと局まで行き、30分にも満たない打ち合わせ(それで十分なので)のあと2時間生放送!という普段のスタイルとはあまりにも異なる。かかわるスタッフの数も多く、改めて、テレビコンテンツに掛かる手間と労力の凄まじさを感じました。ラジオもスタッフはかなりの準備が必要ですが、出役の私は気楽なもの。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 放映後の反応はすこぶる良く、出演を伝えていなかった親戚からも連絡がきました。さすがテレビ、届く数が違う。

 意外だったのは、普段私の書籍を読んだりラジオやポッドキャストを聴いてくださったりしている人たちが出演を大いに喜んでくださったこと。まるで家族がテレビに出たような反応で、この距離感がラジオであり書籍です。

 やはり、苦手に挑戦すると、新たに気づかされることがありますね。主戦場を変えようとは思わないけれど、これはこれで必要なのかも。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年5月22日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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