現代の教育に疑問を投げかけ、新しい学びを提案した『冒険の書 AI時代のアンラーニング』(日経BP)が話題の連続起業家・孫泰蔵さん。そんな孫さんが「AI時代の生き抜き方」を考える。AERA 2023年5月1-8日合併号の記事を紹介する。

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 先日GPT-4という新しい大規模言語モデルが発表されました。その時のデモンストレーションの一つに税金計算がありました。膨大かつ複雑な税金文書を一瞬にして要約し、ある人の給与などを伝えるだけで税金控除や税金の計算をしてしまった。同様に裁判の訴状も作れます。

 何を意味しているかというと、今まで会計士や税理士、弁護士など社会の中で高収入と言われ、大変な努力をしてきた人たちの仕事がAIに置き換えられるということです。

 そう考えると、みすみすAIやロボットに取って代わられるような能力やスキルを、小さい頃から身につけなさい、と言われるような教育をしてきていいのだろうか、という問題は当然出てきます。主体的に生きることを身につけさせてもらえなかった人たちがいざ社会に出たら自分のスキルはAIに置き換えられてしまい、もう用なしだよ、と言われたら非常に不幸です。

 上の世代の人たちはアンラーニングが必要です。「学びほぐし」ともいいますが、学んできたものを一度捨てて、新しい目で学び直していく姿勢です。まずはあらゆることに問いを立ててみること。「なぜこの仕事があるのか」「今やっている仕事や業務がなくなったときに、人生をどうやって過ごしていくべきだろうか」と考えてみるのです。

 人類は近代以降、自分の能力によって地位が決定される「メリトクラシー」の原理の中で生きてきたわけですが、これからはパラレルキャリアの担い手のAIがメリトクラシーの解放者になり、人間はもっと自由に生きることができるのかもしれません。

(構成/教育エディター・江口祐子)

AERA 2023年5月1-8日合併号