すずき・のりたけ/1975年、静岡県浜松市生まれ。会社員、グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。主な作品に『ぼくのトイレ』『しごとば』シリーズなど(撮影/戸嶋日菜乃)
すずき・のりたけ/1975年、静岡県浜松市生まれ。会社員、グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。主な作品に『ぼくのトイレ』『しごとば』シリーズなど(撮影/戸嶋日菜乃)

 2022年2月に発売された、子どもの世界でありがちな失敗を絵本にした『大ピンチずかん』は現在累計発行部数25万部を超える大ヒット絵本に。そのおとな版を考えてみた。こんな失敗、あなたもあるのでは? AERA 2023年4月17日号の記事を紹介する。

【イラスト】“大ピンチ”の様子がこちら

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『大ピンチずかん』の著者・鈴木のりたけさんはこの本の意外な効能も感じているという。大人たちにとっての使い道だ。

 例えば。この本がヒットして、テレビなどで取り上げられることも多くなると、スタジオのゲストやコメンテーターらが、「自分もこんなピンチありました」と、次々失敗をカミングアウトすることも増えていった。

「それも大ピンチを大人が楽しそうに言い合ってる。あー、ピンチ体験にはそういう力もあるんだなとうれしかったですね。まあ、あまりシリアスなものではなく、酒のつまみぐらいのライトなピンチ限定ですが」

 そういうことなら! 自分も手持ちの「大人の大ピンチずかん」を披露させてもらおう。まず、コロナ禍の始まる数年前のことだ。ある夫婦が、電車で小一時間乗ったところにある下町の大手回転寿司店に出かけた。新しいシステムの寿司レーンが登場したタイミングで、ライターの妻が何か記事が書けないかチェックしにいったのだ。

イラスト 土井ラブ平
イラスト 土井ラブ平

■ジョッキは自動で出てこないのに

 この店は当時の最新式の店舗で、生ビールを注ぐのもセルフサービス。だがこのセルフビールサーバーの前で、夫に大ピンチが訪れた。回転寿司にありつくだけのためにこんな遠くまで連れてこられ、一秒でも早くグビグビしたい。そんな状況で注意書きも読まず、セルフを名乗る以上、冷えたジョッキも自動で出てくるだろうと思い込んだ。そして「そそぐ」ボタンをプッシュ!

 ジョ~。

 ジョッキは自動的に出てくることなく、非情にもビールは垂れ流された。まあ、このまま放っておけば、ピンチは最小限に抑えられたのだが、夫の酒への執着が次なるピンチを呼び込んでしまう。こともあろうに、ビールを手のひらで受け止めて飲もうとしたのだ。

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