教団関係者の尾行をまきながら家路を急いだことが何度もある。「絶対におかしい」という信念だけが支えだった(撮影/倉田貴志)
教団関係者の尾行をまきながら家路を急いだことが何度もある。「絶対におかしい」という信念だけが支えだった(撮影/倉田貴志)

 旧統一教会の2世問題や政治家との癒着を20年間追い続けてきたジャーナリスト、鈴木エイト。元首相銃撃事件以降、取材が殺到した。カルト宗教の問題は、報じれば執拗な抗議を受けることが多く、多くのメディアが取材を避けるなか、鈴木はそこに切り込むことを諦めなかった。妨害に負けず、怯まず、ときに面白おかしく。積み上げた膨大なデータと貴重な資料を手に、カルト宗教と政治家の黒い関係を明らかにしてきた。

【写真】週末、地元の友人たちとサッカーで汗を流す鈴木エイトさん

*  *  *

 1月21日夜、横浜市のライブハウス「ネイキッドロフト横浜」。約30席の客席はぎゅうぎゅう詰めで、同時配信のチケットもよく売れていた。この日のイベントは、「『宗教2世』問題を考える ~『宗教2世』の体験共有とこれからの話~」。2018年からロフト主催で不定期で開催されてきたテーマだが、この日は特に盛況だった。

 登壇者の中に「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)を追い続けているジャーナリスト、鈴木(すずき)エイト(55)の姿があった。イベント開始早々、鈴木が壇上から注文したのは、旧統一教会の関連企業が製造している炭酸飲料水「メッコール」。共に登壇した宗教2世の漫画家・菊池真理子らと「久々に飲むと美味しい」「悪くないね」などと言いながら一口飲んで、飄々(ひょうひょう)と話し始めた。

「20年前に旧統一教会を追い始め、2世の存在に気づいた。彼らの内面に目が向いて、問題の根深さを知り、何とかしなければと思ってきた。当事者をなるべく矢面に立たせたくない一方で、僕には何もできない時期があった。暗黒時代でしたね」

 イベントの企画者であり、自身も宗教2世である会場スタッフの幸進伍は、音響をいじりながら、壇上にいる鈴木を見つめて感慨深そうに言った。

「妨害に負けず、怯(ひる)まず、時に面白おかしく、そして楽しく、ずっと取材を続けてこられた。誰にも注目されず、どこにも書けない時期もあったのに。本当にすごいことだと思います。この人がいなかったら、どうなっていたことか……」

 鈴木の名が全国区になったきっかけは、言うまでもなく、昨年7月8日の白昼に起きた元首相・安倍晋三の銃撃事件だ。現行犯逮捕された元自衛官の山上徹也(42)=殺人などの罪で起訴=が奈良県警の調べに、「母親が宗教にはまっていて、恨んでいた。(韓国発祥の)教会を日本に入れたのは安倍の祖父の岸信介(元首相)で、本人もつながりがあると思った」と供述。その宗教が旧統一教会であったことから、長年にわたって教団を追い続けてきた鈴木に取材が殺到。以来、テレビ、ネットニュース、雑誌などに出ずっぱりになった。

著者プロフィールを見る
古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

古田真梨子の記事一覧はこちら
次のページ