3月29日、即位後初の外国公式訪問で独ブランデンブルク空港に降り立ったチャールズ国王とカミラ王妃。英国の君主がドイツを訪れるのは、2015年のエリザベス女王以来(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
3月29日、即位後初の外国公式訪問で独ブランデンブルク空港に降り立ったチャールズ国王とカミラ王妃。英国の君主がドイツを訪れるのは、2015年のエリザベス女王以来(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 国王チャールズ3世がまもなく戴冠式を迎える。70年ぶりの戴冠式を前に、英国民からさまざまな声があがっている。AERA 2023年4月17日号の記事を紹介する。

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 5月6日の英国王戴冠(たいかん)式が近づいている。70年ぶりの戴冠式とあって、多くの国民には初めての経験である。新国王チャールズ3世(74)は、4歳の時に母エリザベス女王の戴冠を見守った。それから70年。新国王は、戴冠式を迎える最高年齢の国王である。

 女王が息を引き取ったのは、昨年9月8日。今回はほぼ8カ月後の戴冠式だが、女王の場合は、父ジョージ6世の死去から1年4カ月後に行われた。つまり、女王の時と比べておよそ半分の準備期間でその日を迎えることになる。圧倒的人気を誇った女王を継ぐ国王は、全幅の信頼を得るため責任感と安定感を示す必要があるだろう。しかし同時に、女王より20歳以上年下の国王は、現代的な王室改革を断行する。特に若い世代の王室離れが進む今、歴史と伝統を守るだけではアピール不足と考えたためだ。

 王室改革は戴冠式にも及ぶ。戴冠式は国費による式典のため、厳しい経済状況下にある国民に配慮し規模を縮小する。女王の戴冠式は3時間を超えたが、今回は1時間を少し超す程度だ。ゲスト数も女王の時は8千人強だったが、2千人に絞った。当日の午前、バッキンガム宮殿を出発してウェストミンスター寺院に向かう手段は慣例を変更して車を使用する。ただ、宮殿に戻る際には今まで通りゴールド・ステイト・コーチ(金の馬車)に乗る。ゲストのドレスコードも「日中向けフォーマル」など簡略化を求め、国王の足元にひざまずいて忠誠を誓うしきたりもできるだけ省略する。軽く短く小規模な式典は国王の目指す「スリム化」と一致する。ただ反対する声も少なくない。「イギリスを世界にアピールする貴重な機会なのに、なぜわざわざ簡素にするのか」などである。

 また、英国での報道によると、国民が驚いた改革に、カミラ王妃(75)の孫の戴冠式への参加がある。王妃と前夫との間の1男1女に合計5人の孫がいる。王妃は戴冠式で孫たちに大きなチャンスを与えたい。式の中で最も重要とされる塗油の儀式は神聖な秘儀としてテレビ中継も許されない。国王と王妃が天蓋に入り、エルサレムから運ばれた聖油を頭や手のひらなどに塗油される。この間、孫たちが天蓋を支える。孫たちは10代で、これまで公式な場に出たことはない。王妃が慣例を破って「ティアラを新調しない」としたときには拍手が送られた。しかし、国民には名前も顔もなじみがない孫を一気に晴れの舞台に押し出す決定とそれを支持した国王の姿勢に、王妃の発言力が急速に増していることが実感された。今後、孫たちが公務の一部を担い、家族行事に加わるのではないかと言われる。これは、王室の多様化や包摂性を示す試みとの説明がされている。

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多賀幹子

多賀幹子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など

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