選挙戦の最終日に「どうか1議席を私に守らせて下さい」と訴える大野知意さん=2023年4月8日、横浜市港北区の東急東横線日吉駅前で(撮影/浜田奈美)
選挙戦の最終日に「どうか1議席を私に守らせて下さい」と訴える大野知意さん=2023年4月8日、横浜市港北区の東急東横線日吉駅前で(撮影/浜田奈美)

 4月9日投開票の横浜市議選で再選した大野知意(おおの・ともい)さんは、昨年4月に立憲民主党の神奈川県7区総支部(支部長・中谷一馬衆院議員)の常任幹事会において「活動量の不足」を問われ、これを理由に党公認を得られていなかった。無所属で選挙を戦い、定数8の選挙区で8番目に当選したわけだが、大野さんが産後8カ月という時点で「活動量不足」を問題視した党総支部の対応を一般社会に置き換えてみると、子育て政策の旗振り役をひょうぼうする立憲民主党の「理想と現実」すら透けて見える。

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■涙声で「ようやく保育所が見つかりました」

 もしもあなたの職場でこんな光景に遭遇したら、どう思われるだろうか。

 会議室で女性社員を幹部が囲み、こう質問する。

「近年の仕事量が他の社員に比べて不足していると、社内から指摘があった。どう思われますか」

 ちなみに女性はこの場に呼ばれる以前に「数年間の仕事量の報告書」の提出を求められていた。報告書を求められた段階で、女性には幹部の意図が分かっていた。

 声を震わせながら女性が答える。

「ご指摘は真摯(しんし)に受け止めます。ですが半年前に第1子を出産し、育児と並行して仕事をしてきました。その点はどうかご理解頂けませんか」。

 涙声で訴え続ける。

「まとまった時間、子どもを預けられる保育所が見つかりませんでしたが、ようやく見つかりました。ご迷惑をおかけしましたが、しっかり働いて参ります。どうぞご理解ください」

 これは昨年4月、立憲民主党の神奈川県7区総支部の常任幹事会で、横浜市議の大野知意さんの公認申請を巡る審議中のやりとりだ。幹事会メンバーが「幹部」、大野さんが「女性社員」にあたる。

■立憲民主党は「ハラスメントにはあたらない」

 筆者は取材でこの経緯とやりとりの内容を知り、言葉を失った。一般社会ではとうの昔に女性労働者の産前・産後休業が労働基準法に規定されている。同法が政治活動には適用されないとはいえ、子育て中の議員に活動量不足を公然と問いただす非情さと、産後8カ月の女性が泣きながら「保育所が見つかった。もう迷惑はかけませんから」と懇願せざるをえない「場の空気」の異常さに、慄然(りつぜん)とした。

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まるで江戸時代の「お白州」