コロナ前と後の思いもよらぬ相互作用(イラスト:サヲリブラウン)
コロナ前と後の思いもよらぬ相互作用(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 パーソナリティーを務めるTBSラジオ「生活は踊る」のイベントで、雪解けの始まった札幌を訪れました。

 北海道は、TBSのラジオ放送がない地域です。にもかかわらずイベントを行うのは、無謀という声もありました。私もどうなることかと不安に思っておりましたが、蓋を開けてみれば、会場は満杯。リスナーさんが大勢いらっしゃったことに、ホッと胸をなでおろすスタッフと私でした。

 放送がない地域では、ラジコプレミアム(有料で全国のラジオが聴けるアプリ)などで配信が聴けます。コロナ禍で自宅滞在時間がながくなり、地元以外のラジオ局を聴く人が増えたように思います。

 ラジオですから、パーソナリティーにとってリスナーさんのお顔を拝見するチャンスは稀です。普段、私は架空のリスナー像をイメージしながら、話しかけるようにマイクに向かっています。しかし、こうして実際に、小さなお子さんからシニア層まで、みなさんのお顔を拝見するリアリティーに勝るものはありません。

 春休みだったこともあってか、行きも帰りも、飛行機は満席でした。空港内はごった返すほどの混雑。ほとんどの人がマスクを装着していたものの、そういえば春休みの羽田ってこういう景色だったと記憶がよみがえります。みんな旅行がしたかったんだなあ。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 札幌の街にも、国内外からの観光客が大勢いました。コロナ前と比べてどれほど戻ったかは不明ながら、観光業全体に活気が戻りつつあることを感じました。私が住む東京にとっては他人事ではありません。外から訪れてくれる方々に支えられていた経済は間違いなく大きかったもの。

 今回の札幌でのイベントにも、遠方から足を運んでくださったリスナーが数名いらっしゃいました。驚くことに、山梨や滋賀など、これまた放送圏外の地域から。東京のローカルラジオのイベントとは思えません。

 スマホやアプリのおかげで様々なものが身近になりました。コロナのせいで、身近だったものが遠く感じられる時期が続きました。同時に、自粛期間が長くなり、ラジオリスナーの数はぐっと増えたように思います。そして、再び遠くなった「旅行」などが身近なものになりつつある。

 これから、ラジオにどんな未来が待っているのでしょう。コロナ前と後の思いもよらぬ相互作用がありそうで、ワクワクしています。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年4月10日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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