撮影/松沢美緒
撮影/松沢美緒

 韓国の少子化に歯止めがかからない。合計特殊出生率は2022年に0.78を記録した。日本を上回るスピードで急激な少子化が進行し、深刻な状況に陥っている。背景に何があるのか。AERA 2023年4月10日号の記事を紹介する。

【図】急激に進む韓国の少子化

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 出生率0.78は前代未聞の低さだが、ソウル大学国際大学院の殷棋洙(ウンギス)教授は「まだ下がる可能性もある」と言う。

 ウン教授は、少子化の主要原因の一つに、若者が子育てできるほど安定的な職を得るのが難しいことを挙げる。大卒初任給は日本よりも韓国が高いと言われるが、実は韓国は大企業と中小企業の賃金格差が大きい。

 韓国統計庁によると21年の大企業の月平均所得は563万ウォン(約57万円)、中小企業は266万ウォン(約27万円)と大企業が2倍を上回る。

就職できない若者や、不安定な非正規職の若者も少なくない」(ウン教授)

 一方、韓国では物価が上がり続けていて、特に昨年は物価上昇率が5.1%と大幅に上がった。それに加え、「ソウル一極集中」で多くの若者がソウルで働こうとするが、ソウルの家賃は高く、結婚・出産どころか日々の生活を維持するのがやっとという若者が少なくない。

 さらに男女格差もある。韓国はOECD(経済協力開発機構)が公表した21年の男女間賃金格差が31.1%と、女性の賃金は男性の賃金に比べて3割以上低い。これはOECD加盟国38カ国中最下位だった。日本は下から3位で22.1%。

「特に昇進は男性に比べて女性が不利な場合が多く、不満は大きい。結局、出産・育児で共働きの一方が辞めざるを得ない場合、賃金の低い女性が辞めることになり、会社内でも家庭内でも女性が不満を募らせるのは当然」(ウン教授)

 ウン教授がさらなる悪化を懸念するのは、文在寅(ムンジェイン)政権下では労働時間を週52時間までに制限し、その徹底に努めてきたが、現在の尹錫悦(ユンソンニョル)政権下で最大週69時間まで制限を緩和する案が出ているからだ。

「今でさえ夫婦の1人が辞めないと子育てが難しい状況なのに、さらに労働時間を延ばすのは少子化対策の観点からは論外。貧富格差や男女格差などさまざまな要因が絡み合って、少子化は政策によってすぐに解決できる問題ではなくなっている」(同)

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