千田翔太は加古川青流戦、NHK杯、上州YAMADAチャレンジ杯、叡王戦(タイトル戦昇格前)と準優勝が多かった。25歳のときに朝日杯で棋戦初優勝を果たし、その実力を示した(photo 戸嶋日菜乃)
千田翔太は加古川青流戦、NHK杯、上州YAMADAチャレンジ杯、叡王戦(タイトル戦昇格前)と準優勝が多かった。25歳のときに朝日杯で棋戦初優勝を果たし、その実力を示した(photo 戸嶋日菜乃)

 AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明名人、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段、「永世七冠」の羽生善治九段らに続く25人目は、「第13回朝日杯優勝者」の千田翔太七段です。発売中のAERA 2023年4月10日号に掲載したインタビューのテーマは「印象に残る対局」。

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「相手の3連覇がかかっていましたからね」

 2020年2月。千田翔太は第13回朝日杯将棋オープン戦準決勝という注目される舞台で、藤井聡太七段(現六冠、20)と顔を合わせた。

「千田七段はこのあたりまで考えてるんでしょうから、恐ろしい時代ですよね」

 解説担当のある棋士は、千田の早指しを見てうなった。当時最先端の戦型で、藤井が持ち時間40分を使い切ったとき、千田はまだ4分しか使っていなかった。それだけ早く指せたのは、事前研究があったから?

「もちろんそうです。ソフトとの練習対局でもやっていて、通りなれた道でした」

 もちろん将棋はAI(コンピューター将棋)研究だけでは勝てない。熱戦の末、千田は地力を発揮して藤井に勝利。続く決勝では永瀬拓矢二冠(現王座、30)を下して初の栄冠をつかんだ。

「準決勝で藤井さんを倒したので、決勝で負けると何を言われるかもわかりませんし」

「いろいろな棋戦で準優勝していたんですけれど。朝日杯も準優勝でコンプリートするのはあれなので、そろそろ取りたいなと思っていました」

ちだ・しょうた/1994年4月10日生まれ。28歳。大阪府箕面市出身。森信雄七段門下。2013年、四段。19年、七段。20年、朝日杯優勝。升田幸三賞受賞2回(photo 戸嶋日菜乃)
ちだ・しょうた/1994年4月10日生まれ。28歳。大阪府箕面市出身。森信雄七段門下。2013年、四段。19年、七段。20年、朝日杯優勝。升田幸三賞受賞2回(photo 戸嶋日菜乃)

 公開対局に詰めかけたファンの前で千田はそう語り、会場は笑いと拍手に包まれた。

 千田は現在まで藤井と6回対戦している。

「藤井さんとは2勝4敗です。勝てたのは朝日杯と、順位戦ですね」

 22年1月。千田はB級1組順位戦で藤井と対戦。A級昇級を争う大きな一番は双方の駆け引きから、定跡形をはずれた形となった。

「序盤から終盤までちょっとはっきりしない展開で。もうちょっとうまく指せるようにがんばらないといけないな、と思わされる内容でもありました」

 千田がようやく勝利を確信したのは終局3手前、決め手の銀を打ったところだった。

「ふらふらだったんですけれど、ほぼ勝ちと読みきった感じですね」

 最終的には、藤井はトップでA級に昇級し、千田は3番手で次点となった。それでもこの一局で示した千田の強さは、現代将棋界の層の厚さを示すのに十分なものだった。

(構成/ライター・松本博文)

発売中のAERA2023年4月10日号では、藤井聡太のキーマンとして取り上げられることや、新戦法の創案者に与えられる升田幸三賞を2回受賞した思いについても触れている。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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