将棋界のあらゆる栄冠を手にしつつある藤井聡太新六冠。年度MVPにあたる「最優秀棋士賞」の受賞も、ほぼ間違いない(代表撮影)
将棋界のあらゆる栄冠を手にしつつある藤井聡太新六冠。年度MVPにあたる「最優秀棋士賞」の受賞も、ほぼ間違いない(代表撮影)

 藤井聡太が棋王戦五番勝負で10連覇中の渡辺明を破り、史上最年少で六冠を達成した。残るタイトルは名人と王座。史上初の八冠制覇が現実的に想定しうる段階に入った。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。

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 将棋界の若き王者が、ほとんど完璧に近い年度を、最後も華麗に締めくくった。

 藤井聡太挑戦者(20)が渡辺明棋王(38)と対戦する棋王戦五番勝負第4局は3月19日、栃木県日光市でおこなわれ、132手で藤井が勝利を収めた。藤井は3勝1敗でシリーズを制し、初めて棋王位を獲得した。

「棋王戦では前期までなかなか、よい成績を残せていなかったので。今期、五番勝負まで進むことができて。その中でなんとか、本当に大変な将棋ばかりだったんですけど、結果を残すことができたというのは、非常に嬉しく思っています」(藤井)

 将棋界の序列では、藤井が1位で渡辺が2位。両者の対局のほとんどは熱戦、名局となる。今回もまたそうだった。

「判断が難しい局面が続いた一局だったかなと感じています」(藤井)

 基本的に藤井は作戦面において、相手の注文をすべて受けて立つ王道の姿勢だ。棋王戦五番勝負と並行しておこなわれた王将戦七番勝負では、挑戦者の羽生善治九段(52)が様々な工夫を見せ、全6局すべて戦型が異なるシリーズとなった。

AERA 2023年4月3日号より
AERA 2023年4月3日号より

■相手の歩の上に桂馬

 対照的に棋王戦では、すべて現代最新の角換わりとなった。作戦家の渡辺にとっても、番勝負を通じて全局同じ戦型というのは、初めての試みだった。

 観戦者には難解すぎる序中盤を経て、見ごたえのある攻防が長く続いた。

「本当に最後まで全くわからないまま指していたんですけど」(藤井)

 使いづらい駒であるはずの桂馬を、藤井は終始、うまく使った。そして最終盤、相手の歩の上に桂馬を打ち捨てる妙手を放って、きれいに決めてみせた。

「負けました」(渡辺)

「ありがとうございました」(藤井)

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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