王将を防衛し五冠を堅持した藤井聡太。この先も勝ち続けると、最短で今年の秋、史上初となる全八冠独占の可能性がある
王将を防衛し五冠を堅持した藤井聡太。この先も勝ち続けると、最短で今年の秋、史上初となる全八冠独占の可能性がある

 藤井聡太が羽生善治との「ドリームマッチ」を制し、王将位を初防衛した。通算タイトル99期のレジェンドとの6局は全て熱戦となり、ファンを沸かせた。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。

【図を見る】藤井聡太王将が4勝2杯で初防衛

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 将棋界におけるあらゆる栄冠を手中に収めつつある藤井聡太王将(20)。これまでただ一人だけ七冠独占、永世七冠を達成している羽生善治九段(52)。将棋史を代表する両雄のドリームマッチは2カ月にわたる戦いの末、若き王者に軍配が上がった。

 藤井に羽生が挑戦する第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第6局は3月11、12日におこなわれ、藤井が勝利。4勝2敗で王将位防衛を果たしている。

■充実感のあるシリーズ

「羽生九段とタイトル戦の大舞台で対戦できるというのは、私自身も非常に楽しみにしていました。内容としても全て違った戦型になって。その中で一手一手考えるという展開で。非常に充実感のあるシリーズだったかなと思いますし、その中で、羽生九段の強さを感じた場面も多くあったと感じています」(藤井)

「名勝負に名局なし」という言葉もある。しかし今シリーズは、掛け値なしに名局、熱局ぞろいだった。

 藤井はタイトル戦の番勝負においていまだ敗退がなく、ほとんどの場合は圧倒的なスコアで制している。七番勝負において、第4局を終えた時点で2勝2敗だったのは、今回が初めてだ。羽生が勝った第2局、第4局は、羽生が底力を示したと言えるだろう。

 結果的にシリーズの帰趨(きすう)を決したのは第5局ということになるだろう。羽生が優位を築いた場面もあったかに見えた。しかし、最後に勝ったのは藤井だった。

 第6局は先手の羽生が角換わり早繰り銀の戦型を選ぶ。対して後手番の藤井が前例を変える手を選び、攻めを受け止めながら反撃を見せ、1日目で藤井がリードを奪う展開となった。

「封じ手のところはもうわるいと思うので。たぶんその前に問題があったと思うんです」(羽生)

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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