井口理さんと伊藤ちひろさん(撮影/山本倫子)
井口理さんと伊藤ちひろさん(撮影/山本倫子)

井口:人生の分岐点だ。

伊藤:脚本は高校生の時にも見様見真似で挑戦してみたことがあるんだけど、当時は何もわからず全然書けなかったから、選択肢に入れてなかった。たぶん小道具の仕事で脚本を読んでいるうちに書けるようになったんだと思う。

井口:まじか(笑)。ちひろさんって対応力がすごいね。

伊藤:そう、対応力あるの、料理とか一度食べたら再現できちゃったりするような。あんまり使う機会のない能力だけど(笑)。

井口:爪を隠してきたんだね。そこでもし行定さんがすぐ「監督やりなよ」って言ってたら、やってたかもね。

伊藤:それはやってないと思う。前に出たくなかったから。

井口:じゃあ、この先も芝居はやらない?

伊藤:演じる側? 絶対やらない。ただ、10年前も「監督なんて私にはやれない」って言ってた気がする……。

井口:ちひろさんにとって行定さんはどんな存在なの?

伊藤:師匠。兄のような感覚もあるけど。

井口:確かに家族っぽい。「ひとりぼっちじゃない」の現場で言い合いをしていた時、きょうだい喧嘩みたいだったもん(笑)。

伊藤:ははは!

井口:あの夏からもう1年半くらい経つのか。約2週間の撮影中、みんな汗だくだったよね。初日が終わって、撮られる云々とか気にしてたら何もできないなと思って、そこからはとにかく必死だった。

伊藤:うん、私も必死だった。

井口:小手先で表現する余裕すらなかった。俺は初主演で、ちひろさんは初監督。自分たちが持っているエネルギーを全部ぶつけて「とりあえず頑張んなきゃ!」っていう、そこに嘘がなかったというか。

伊藤:井口君、すごい集中力だった。私たち、現場ではほとんどしゃべってないよね。クランクインする前にしゃべり尽くしたんだろうね。

井口:俺、カットとカットのあいだの待ち時間が好きだったなあ。何を話すでもなく、モニターの前にみんなで座ってる、みたいな。ああいう時間は初めてだったから……。

伊藤:なんか、懐かしいね。

井口:しみじみしちゃった(笑)。ちひろさんはこれからも監督を続けていく?

伊藤:うん、やっていきたい。井口君はどう?

井口:「ひとりぼっちじゃない」をやる前は息巻いていたというか。もっとたくさんの作品に出て、演じることに慣れたいなって思っていたんだけど、こうやって時間をかけてちひろさんと一緒に作ってみて、やっぱり俺は一つひとつの作品とちゃんと向き合っていくべきだなと。自分はそのタイプだなと思った。

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