ヒヤシンス栽培2度目で気付く育つ過程の尊さ(イラスト:サヲリブラウン)
ヒヤシンス栽培2度目で気付く育つ過程の尊さ(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 一昨年の冬のこと。フリーアナウンサーの堀井美香さんとお送りするポッドキャスト番組「OVER THE SUN」で、とあるメールをきっかけにリスナーさんと一緒にヒヤシンスを育てることにしました。各々が球根を買い、土に埋めるか水耕栽培で育てるスタイルです。

 いっせーのせで同じ時期に栽培を開始したものの、それぞれ環境が異なったため、プロジェクトは予想だにしない結果となりました。

 芽は出たのに根っこが伸びない、根っこばかり伸びて芽が出てこない、根っこの横から芽が出てきちゃった、あっという間に咲いちゃった、咲いたと思ったら花のかたちもそれぞれで、まったく足並みが揃わなかったのです。

 私のヒヤシンスも、茎が伸びないうちに花が咲いてしまい、想像とは異なる仕上がりに。にもかかわらず、唯一無二のヒヤシンスの可愛らしいことよ。なるほど、こういうもんだ、これでいいんだよねと、思わぬ形で中年情操教育になりました。

 興味深かったのは、同じ店で購入した二つの球根を、同じ部屋で同じように育てても成長に違いが出ること。花ですらこうなのだから、人間なんてなおさらだ。みんな同じなんて、土台無理な話なのだよ。

 さて、この冬から2度目のヒヤシンスプロジェクトが、ゆるーりと始まりました。私はと言えば、情けないことに相も変わらず仕事に追われる毎日。年が明け、2月に入り、気付けばどこにも球根が売っていない! ピンチ!

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 仕方なく、つぼみがついた状態まで農家で育てられたヒヤシンスの鉢植えを、ようやく先日購入しました。ちゃんとした花がしっかり咲くことが約束されたものです。

 これがねえ、つまらんのですよ。鉢植えはひとつも悪くない。けれど、私は「美しい花」という成果を期待していたのではなく、育てる過程をエンジョイしていたのだな。今日も根っこが伸びた、茎が伸びたというような、日々の変化を味わっていたのだな。

 リスナーさんのSNSを覗いてみれば、今年も球根から育てている人々は本当に楽しそう。またしてもひとつとして同じ花はなく、年のせいか写真を見てじんわり涙ぐむ私。

 猛者は去年に花をつけた球根を土に埋め2度目の花を楽しんでおり、なんとも贅沢な様子。私も次こそはと決意を新たにしました。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年3月13日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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