ウクライナ東部ドネツク州で、ロシア軍のミサイル攻撃によって破壊された建物(ロイター/アフロ)
ウクライナ東部ドネツク州で、ロシア軍のミサイル攻撃によって破壊された建物(ロイター/アフロ)

 元外交官の東郷和彦さんと慶應義塾大学教授の廣瀬陽子さん。ロシアに詳しい2人がウクライナ戦争について意見を交わした。米国の姿勢の変化、プーチン大統領をロシアに残すべき理由、そして日本の役割は──。AERA 2023年3月13日号の記事を紹介する。

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東郷:僕が最近注目したのは、1月25日のワシントン・ポストに載った米国のブリンケン国務長官のインタビューです。ウクライナ側の譲歩の可能性が実に膨大な地域について検討されている。その中で特にクリミアについて関係者で詳細な議論がなされ、「クリミアを掌握するというウクライナの全面的なキャンペーンは非現実的だと多数の米国及びウクライナの官僚は思っていて、長期戦を回避する必要がある」と。驚きましたね。これは本当か?と。2日後の27日には、米国防省のシンクタンク・ランド研究所が「戦争の長期化は武器のエスカレーションによる一貫した危険性があり、経済的リスクを引き起こす。ゼレンスキー大統領の全面勝利のビジョンは楽観的で起こりそうもない」とする短期停戦を前面に打ち出した意見を発表しています。

廣瀬:ブリンケン国務長官の発言は、私も読みました。衝撃的で信じられなかったです。国務長官がこんなことを言うのか、と。日本で報じられていないことにも驚いています。

東郷:僕は米国の国内政治に詳しくはありませんが、政権の中に多様な意見があることは感じます。ブリンケン氏の発言が、米国の一つの考え方であれば非常に心強いです。

 私は祖父の茂徳が太平洋戦争の終戦工作の中心にいた外務大臣だったこともあり、非常に興味を持って当時のことを勉強しました。日本全土が絨毯(じゅうたん)爆撃を受ける中、当時の鈴木貫太郎内閣には戦争をやめなければならないという意思はありましたが、国体と天皇制の安泰が絶対条件でした。米国はよく理解していて、「将来の日本の政体は日本国民が自由に表明する意思のもとに決定される」という絶妙な答えを出してきたから、日本はポツダム宣言を受諾できた。もし「天皇制を認めない」とされたら、日本は国として滅びた可能性があるわけです。

 もうひとつ、日本には得難いロシアとの戦争と平和の経験があります。日露戦争の大勝利とその後の4次の日ロ協約、終戦直前のソ連参戦、それを乗り越えて展開してきたロシアとの領土交渉、その重要な相手はプーチンでした。そこで学んだ知見があるはずです。

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