エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 3月8日は国際女性デー。世界でも突出してジェンダー格差の大きな日本では迅速な変化が必要です。

 先日、ある組織で女性幹部を3割に増やす計画があると聞きました。3割は意思決定に影響を及ぼし得る最低限の割合です。その組織ではなんと現在の女性幹部は1割ほどしかいないといいます。日本の組織では珍しい話ではありません。するとある若手男性がこう言いました。

「今は幹部候補にも女性が少ないので、急に女性幹部を増やすと、男性に比べて能力の低い人が多くなると思う。すると組織全体の評価も落ちるので、いきなり女性3割を目指すのではなく少しずつ増やしたらどうか」

 特におかしいところはないと思いますか。「男性に比べて能力の低い人が多くなる」というこの男性の推測は正しいでしょうか。この発言を受けてその場にいた専門家が示したある大学の事例では、女性研究者に絞った募集をかけて採用した教員の研究実績は、男性研究者の平均を上回っていたそうです。つまり、大部分を男性が占める研究者の世界では、十分に優秀な人たちが女性であるという理由で登用を後回しにされたり低く評価されたり、働きづらかったりして、ふさわしい職に就けていないことを示しているというのです。

無意識の思い込みはないだろうか。格差解消について考えるとき、自らを省みよう(gettyimages)
無意識の思い込みはないだろうか。格差解消について考えるとき、自らを省みよう(gettyimages)

 先ほどの発言では「女性は男性より能力が低い」が前提になっていました。発言者は、女性幹部の数が少ないのは女性が優秀でないからだと思っているようですが、肝心のことが見えていません。そもそも女性は性別を理由に、能力で勝負できる場に参加する機会を得られていないのです。この男性のような視野の狭さこそが、女性を社会から排除してきました。ジェンダー格差解消について考えるときは、自身に無意識の思い込みがないかを慎重に省みる習慣が大切ですね。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年3月13日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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