医療法人社団モルゲンロート理事長 小暮裕之さん(44)/2月、16年前にゆりかごに預け入れられた生い立ちを昨年公表した19歳の青年と熊本市で面会した。背中を押される思いがしたという(撮影/三宅玲子)
医療法人社団モルゲンロート理事長 小暮裕之さん(44)/2月、16年前にゆりかごに預け入れられた生い立ちを昨年公表した19歳の青年と熊本市で面会した。背中を押される思いがしたという(撮影/三宅玲子)

 長らく本のみだった「赤ちゃんポスト」が昨年、北海道で開設された。日本の孤立出産を巡る環境が変わりつつある。AERA2023年3月6日号の記事を紹介する。

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 厚生労働省社会保障審議会児童部会の検証結果によると、過去5年の日本での月齢0カ月児の虐待死亡件数は7~16件とばらつきがある。

 22年6月、北海道千歳市のJR千歳駅でコインロッカーに赤ちゃんの遺体が遺棄される事件が起きた。筆者はこの事件と21年に神奈川で起きたコインロッカー遺棄事件の裁判を取材したが、被告女性は2人とも「ゆりかご」の存在を知っていた。ただし千歳の被告はコロナ禍と費用面であきらめた。神奈川の被告は熊本に連れていくつもりだったが、死産している。

 常識的には耐えられるはずのない痛みと恐怖と絶望のなか、1人でときを待たなくてはならない、それが孤立出産だ。背景には、愛着障害、グレーゾーンの神経発達症(発達障害)、境界知能などが複雑に影響していると慈恵病院は指摘する。私たちが思うよりはるかに多くの孤立した妊娠女性が、暗がりで息を潜めている。

 そんななか、東京で赤ちゃんポスト開設に向けて動きだした医療法人がある。江東区を中心に小児科、内科など五つのクリニックを経営する医療法人社団モルゲンロートだ。24年に江東区に開業する産婦人科クリニックに赤ちゃんポストを設置する計画を進めている。

■実績あるNPOと組む

 モルゲンロートの計画は他団体と連携して運営する「ハイブリッド型赤ちゃんポスト」だ。赤ちゃんポストは妊娠女性からの相談に応じる相談業務と赤ちゃんの安全な保護が運営の柱となるが、相談業務について、予期せぬ妊娠をした女性の相談業務に実績のあるNPO法人と連携する予定だ。

「運営コストの高い東京では熊本の慈恵病院のように全業務を賄うことは難しい。高い相談技術を持つ団体と組めばより早く事業を開始できる」

 理事長で小児科医の小暮裕之さん(44)はこう話す。勤務医時代に虐待を受けた子どもの治療に何度も関わり、胸を痛めたことが原体験にある。

 小暮さんは、110番(警察)、189番(虐待通報)などと同様に、妊娠電話相談についても3桁の番号を設置し、発信者の近くの電話相談団体に自動的に割り振られるような、関係するさまざまな団体が連携する案を示した。

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