佐藤:加藤さんの『百万本のバラ物語』でも書かれていますが、ふるさととは何かということだと思うんです。例えば、ロシアは今、ウクライナの4州を併合して21世紀の旧満州国のような領域を作っているわけです。でも、そこにいる人たちは国家の政策とは関係ないと思うんです。だってウクライナの東や南の人は、日常的にはロシア語をしゃべって、ロシア正教会の教会に通って、ロシア文化の中で育っている。ただし、ウクライナのパスポートを持っていて、そのことに特に違和感を持っていなかった。それが突然、お前はロシア人かウクライナ人か選べと。

加藤:そういうことがウクライナで起きているんですね。今までのようなロシア語を話したままウクライナ人であることは許されなくなっているのは分断を強めてしまいますよね。

佐藤:自分たちでは何人だと考えたこともないのに、選ばないといけない。それで、選び方によっては親子、きょうだい、友だち同士が殺し合いをしないといけない状況を作り出しているわけです。これは絶対にやめさせないといけません。我々は無力だと思ったらいけない。微力なんだけども無力じゃないんです、みんなの力を合わせれば。元はラトビアの子守歌だった「百万本のバラ」はロシア、ウクライナ、ラトビア、ジョージア、そして日本で歌い継がれています。歌を聞いたり歌ったりする時には、ロシア人もウクライナ人もラトビア人もジョージア人も日本人もみんなの心がつながるわけですから。

加藤:この歌は(東西冷戦時代に)その東西のカーテンを揺るがした。つまり、自由に向かってあのカーテンを開いた。大きな役割を果たした歌だと思うんです。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2023年3月6日号より抜粋