エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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「コロナのおかげで健康になった」という知人がいます。リモートワークで毎夜毎夜の仕事の会食がなくなり、体重が減って気持ちにも余裕ができたというのです。同じようなことを言っている友人が何人かいます。得意先の接待で平日の夜がほとんど埋まっていた人や、上司が昭和のサラリーマン気質で飲みに連れて行かれてしまうという人も「この3年ですっかりなくなった、もう元の暮らしには戻れない……」と話しています。今や海外では週4日勤務を常態にしようという動きもあります。オフィスに人が戻りつつある一方で、この3年で仕事に費やす時間の価値観は大きく変わりましたよね。

 2月のバレンタインデーに関する報道では、かつてあんなに盛んだった義理チョコの風習がすっかり廃(すた)れつつあることがわかりました。感染を防ぐためなどの理由で義理チョコをやめるよう呼びかけた職場もあったそうです。コロナ禍をきっかけにやっとやめることができたとホッとしている人も多いでしょう。もらう方だって、お返しが面倒だったのでは。どうか10年後には、かつての日本の奇習として驚きをもって語られていますように。

コロナ禍をきっかけに、仕事最優先の生活が変わったという人は少なくない(写真:gettyimages)
コロナ禍をきっかけに、仕事最優先の生活が変わったという人は少なくない(写真:gettyimages)

 時間の使い方も、人間関係の作り方も、人生の中心に職場を据えて私生活を二の次にするような日常にはもう誰も戻りたくないですよね。それまで当たり前だと思っていた仕事最優先の生活が自身の健康やメンタルにどれほど負担となっていたのか、実感した人も多いのでは。旅を楽しみつついつもと違う環境で仕事をするワーケーションという言葉も最初は散々な言われようでしたが、コロナ禍を経て定着した感があります。かつては居場所と時間と人間関係の全てを職場に決められていましたが、それらを自分で調整して快適に働けるようになりつつあることに、微かな希望を感じます。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年3月6日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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