AERA 2023年3月6日号より
AERA 2023年3月6日号より

 多くの飲食店で相次いで迷惑行為が行われ、その動画が拡散されている。どうして「客テロ」は起きるのか、なぜ世間は厳しく批判するのか。専門家に意見を聞いた。AERA 2023年3月6日号の記事を紹介する。

【写真】くら寿司のレーン上部に設置されているAIカメラ

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「客テロ」と言われる迷惑行為に対してAIカメラの設置などの防止策を講じる飲食店が相次いでいるが、その対応に追われるのは「対策しない店には行きたくない」という客の声があるからだ。だが、流通アナリストの中井彰人さんはこう訴える。

「被害者であるはずの外食産業だけが負担を強いられるのは間違っています。動画が拡散されることによって便益を受けているのは投稿者以上に、SNSの運営企業です。今や社会的なインフラであるSNS側が、違法性のあるものを野放しにしていることが問題です」

 行きすぎた機械化や人員削減が迷惑行為の原因になったと指摘する意見もある。一方で、中井さんによると、回転ずしは「非接触」が先行していた業態で、それがコロナ禍で歓迎され、他の業態と比べて来客数もさほど大きくは減らなかった。人手不足の状況は今後も変わらず、省人化は外食産業全体で今後も進めていかなければならないものだという。

「昔から回転ずしは回っていたし、しょうゆ差しや湯のみは置いてあった。省人化で人の目が行き届かなくなり、迷惑行為が増えたというのは言いすぎではないか。何が変わったかと言えば、やはりSNSの環境なんです」(中井さん)

 迷惑行為について、金城学院大学の北折充隆教授は社会心理学の視点から研究してきた。

「『迷惑な人間が自分だけではない』と思うことは、ルールを破ることへの抵抗を大きく下げます」

 北折さんによると、「自分は大丈夫」「大したことにはならないはずだ」などと思い込む心理は「日常性バイアス」という作用が関係しているという。正常性バイアスとも言われ、異常事態に直面しても正常の範囲内であると判断し、平静を保とうとする人間の心理傾向のことだ。

「自分はこれまでバズったこともないし、こんなの誰も見ていないだろう、と日常性バイアスが誤った方向に作用してしまったのではないかというのが私の仮説です」(北折さん)

■ずっと募らせていた怒り

 迷惑行為は決して許されない。回転ずしチェーンでしょうゆのボトルをなめたり、指に唾液(だえき)をつけてレーンを流れるすしに塗りつけたりした少年も厳しくメディアやSNS上で批判された。一方で、少年は学校を自主退学したと伝えられている。ここまで“たたかれる”事態になったことについても議論が起きた。

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