Fredrik Wenzel (c) Plattform Produktion
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 モデルで人気インフルエンサーのヤヤと、人気に陰りが見えてきた男性モデルのカール。二人は豪華客船でのクルーズ旅に招待される。が、船が難破。流れ着いた無人島でサバイバル能力を発揮したのは清掃係の女性だった──。連載「シネマ×SDGs」の41回目は、本年度米アカデミー賞3部門にノミネートされた話題作「逆転のトライアングル」のリューベン・オストルンド監督に話を聞いた。

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 本作のきっかけはファッションフォトグラファーである妻から、ある男性モデルの話を聞いたことです。車の修理工をしていた彼は都会に来てスカウトされ、19歳にしてあっという間に高額のギャラを稼ぐモデルになった。それを聞いて「美」が貨幣のような価値を持ち、社会の階級を上るために使われることに興味を持ちました。同時に男性モデルが女性モデルの3分の1ほどしか稼げず、ゲイの権力者からの誘いを断るのに苦労する現状も聞きました。彼らの状況は男性優位社会における女性の苦労と変わらない。そこからカールという主人公が生まれました。

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 劇中でカールは恋人との関係でも無人島におけるサバイバルでも、男性として社会に期待される“役割”と格闘します。過去作「フレンチアルプスで起きたこと」「ザ・スクエア 思いやりの聖域」で描いた男性の苦悩にも重なり、意図せず3部作のようになりました。

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 僕の作品はすべて人間観察からはじまります。特に本作には行動心理学や社会学的な観点があります。社会学とはその人個人を「いい人だ」「悪い人だ」でみるのではなく、国家や社会という文脈のなかに「個」を置いてみる学問です。物質主義的な社会のなかで登場人物たちがどういう行動を取るのか、それが僕には興味深いのです。その原点には教師である両親、特にマルクスを信奉する母から母乳を浴びるように考え方を教わった影響が大きいと思います。常に距離を置いて世の中を観察しているんです。物事に没入する体験がないことは悲しくもありますが(笑)、しかし現代人は自分の視野でのみ物事を見てそれ以外を排除する傾向にある。ぜひ少し離れた距離から登場人物を観察し、社会のなかでの自分の行動にも思いを巡らせてもらえればと思います。(取材/文・中村千晶)

リューベン・オストルンド(監督・脚本)Ruben Ostlund/1974年、スウェーデン生まれ。「ザ・スクエア 思いやりの聖域」と本作でカンヌ国際映画祭2作品連続パルムドール受賞。23日から全国で公開 (c) Sina Ostlund
リューベン・オストルンド(監督・脚本)Ruben Ostlund/1974年、スウェーデン生まれ。「ザ・スクエア 思いやりの聖域」と本作でカンヌ国際映画祭2作品連続パルムドール受賞。23日から全国で公開 (c) Sina Ostlund

AERA 2023年2月27日号