AERA2023年2月27日号より
AERA2023年2月27日号より

 新しい日銀総裁に植田和男氏が就く。黒田東彦総裁が続けてきた「異次元の金融緩和」は軌道修正されるのか。日本の金融政策の行方は。これまでの植田氏の言動から読み解いた。AERA 2023年2月27日号の記事を紹介する。

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 まさに“青天の霹靂”のような日銀総裁人事だった。4月8日で任期満了となる黒田東彦総裁の後任として、政府は共立女子大学ビジネス学部ビジネス学科の植田和男教授に白羽の矢を立てた。本命視されていた雨宮正佳副総裁が固辞し、苦肉の策として浮上したとの報道もある。

 ダークホースとしても名前が挙がっていなかっただけに、このニュースは様々な方面に大きなサプライズを引き起こした。特に動揺したのが株式市場で、10年間にわたって黒田総裁が続けてきた「異次元の金融緩和」が軌道修正されるとの見方が広がり、日経平均株価は一時400円以上も下落した。

 日銀総裁人事は第22代以降、長きにわたって日銀出身者と旧大蔵省(現財務省)出身者が交互に就任する“たすき掛け”の状態が続いてきた。だが、1998年の日銀法改正で中央銀行の独立性が強化されたのを機に、28~30代は日銀出身者が連続で総裁となっている。

■学者出身は戦後初

 この流れを断ち切ったのが31代の黒田総裁で、15年ぶりに旧大蔵省出身者の日銀総裁が誕生。前年末発足の第2次安倍晋三内閣は「アベノミクス3本の矢」として(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略を掲げ、(1)を推進するための抜擢だった。

 バトンを引き継ぐ植田新総裁は98~2005年に日銀審議委員を務めた実務経験があるものの、学者が日銀総裁の座に就くのは戦後初。ただ、海外では珍しくない人事で、ジャネット・イエレン前FRB(連邦準備制度理事会)議長(現米国財務長官)も経済学者だった。

 今回の総裁人事について、日銀ウォッチャーとして知られる東短リサーチの加藤出チーフエコノミストはこう述べる。

「政府としては、新総裁が拙速に金融政策の軌道修正を進めて、金利の急上昇や株価の急落を招くような事態は避けたい。一方で、黒田路線をそのまま継承するのではなく、状況に応じて柔軟な対応を行ってもらいたいと考えているはず。そういった意味で、タカ派でもハト派でもなく、中道的な立場から金融政策について考えられる人物として抜擢したのでしょう」

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大西洋平

大西洋平

出版社勤務などを経て1995年に独立し、フリーのジャーナリストとして「AERA」「週刊ダイヤモンド」、「プレジデント」、などの一般雑誌で執筆中。識者・著名人や上場企業トップのインタビューも多数手掛け、金融・経済からエレクトロニクス、メカトロニクス、IT、エンタメ、再生可能エネルギー、さらには介護まで、幅広い領域で取材活動を行っている。

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