「ユニクロ」の店舗。ファーストリテイリングは3月から正社員約8400人の賃金を最大で40%引き上げる(photo アフロ)
「ユニクロ」の店舗。ファーストリテイリングは3月から正社員約8400人の賃金を最大で40%引き上げる(photo アフロ)

 久しぶりのインフレ下の春闘。みんなで渡れば怖くないのか、多くの大企業には賃上げの動きが目立つ。だが持続的な賃上げを果たすには経営のイノベーションが必要だ。AERA2023年2月13日号の記事を紹介する。

【図表】ユニクロだけじゃない、主な企業の賃上げの動きはこちら

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 スイスの保養地で毎年1月に開かれるダボス会議ではサントリーホールディングスの新浪剛史社長が「賃金を上げることを企業責任でやらねばならない」と言い、労働組合の中央組織である「連合」は今春闘の賃上げ目標を「5%程度」と引き上げた。最近の春闘相場は2%前後の攻防だったので、倍増の勢いだ。

 グローバルに活動する大企業に限った話かもしれないが、「賃上げ」に前向きな動きが相次いでいる。

 大企業が集まる経団連は毎年春闘前にまとめる「経営労働政策特別委員会報告」で、賃上げは「企業の社会的責務」との方針を盛り込んだ。

 これまでの経団連の方針はどちらかというと賃上げには腰が引けていた。賃上げは各企業の判断でするもの、一律に引き上げるものではない──が基本原則。高収益企業には「どうぞご自由に賃上げを」という立場だったが、賃上げを「社会的責務」などと受け止めてはいなかった。

 それが今年は大きく風向きが変わった。

■41年ぶりの物価高

 その一番の理由は物価高だ。コロナ禍という100年に一度のパンデミックで様々なモノの供給量が減少した。グローバルに張り巡らされたサプライチェーンは新型コロナの感染拡大によって、世界中で目詰まりが生じた。供給量が減ると物価は上がってゆく。そこに昨年2月からロシアのウクライナ侵攻が重なった。

 消費者物価の上昇率が前年比10%前後の欧米に比べて日本はまだ4.0%(2022年12月、生鮮食品を除く)と低いものの41年ぶりの物価高となった。

 一方、日本の賃金はこの約30年間ほぼ横ばいだ。経済協力開発機構(OECD)の調査でみると、1990年から21年までの日本の平均賃金の伸び率は6.3%にすぎない。米国が53.2%、英国が50.4%だから日本の賃上げは桁違いに低い。いまでは日本の賃金は韓国を下回り、アジアトップの地位から滑り落ちてしまった。

 日本は長らく物価が下がるデフレに陥っていたので、賃上げ率が低くてもなんとか暮らせてきたが、昨年来の物価高騰で実質賃金の目減りが続いている。もはや賃上げは待ったなしの状況に陥った。

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安井孝之

安井孝之

1957年生まれ。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京、大阪の経済部で経済記事を書き、2005年に企業経営・経済政策担当の編集委員。17年に朝日新聞社を退職、Gemba Lab株式会社を設立。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

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