2019年4月、中学に入って間もなく亡くなった、熊本市の男子生徒のノートにつづられた文字。小学校卒業前に書かれ、別のページには「呪」「絶望」などとある(photo 遺族提供)
2019年4月、中学に入って間もなく亡くなった、熊本市の男子生徒のノートにつづられた文字。小学校卒業前に書かれ、別のページには「呪」「絶望」などとある(photo 遺族提供)

 教師の行き過ぎた指導が児童生徒を死に追いやる「指導死」が問題になっている。有形の暴力以外では教師が罰せられないことも、遺族をさらに傷つける。指導死をなくすにはどうすればいいのか──。遺族の思いを聞いたAERA2023年1月30日号の記事を紹介する。

【写真】この記事の写真の続きはこちら

*  *  *

死死死死死死死死……。

 小学6年の男児は、どのような思いでこの文字をノートに書き連ねたのか。

「息子はすごく明るく面白い子で、自分で面白いことを言って周りを笑わせ自分も一緒に笑うような子でした。だから、『死』という字は息子からは想像ができないですが、それくらい追い詰められていたのだと思います」

 男児の母親(48)は静かに話す。

 2019年4月18日夜。中学1年になった男児は、本市の自宅マンション14階から飛び降りた。教師の指導がきっかけによる「指導死」だった。

 元気いっぱいだった男児の様子が変わったのは、小学6年になり担任の教師が代わってから。その男性教師は複数の児童に対し「バカ」「アホ」といった暴言を繰り返したり、胸ぐらをつかんだりした。男児も直接、叱責(しっせき)や暴言を受けたという。

 男児は夏ごろから変調の兆しが見られた。トイレに何時間もこもるようになり、円形脱毛症にもなった。母親が「何か悩み事でもあるの?」と聞くと、「担任がうざい」と言った。2学期になると、夜はあまり眠れなくなり食欲も落ちてきた。

「死」と記されたノートは、3学期になって別の教師が見つけた。ノートの別のページには「呪」「絶望」「亡」の文字も鉛筆で殴り書きされていた。

 発見した教師は校長には報告した。だが、当面は見守ることとして両親には伝えなかったという。男児は4月に中学に入り、間もなく命を絶った。

■当時の担任は懲戒免職 校長、教頭らは懲戒処分

 息子に何があったのか──。

 真実を知りたいと望んだ母親は、第三者委員会の設置を求めた。22年10月下旬、同級生や教職員ら延べ83人から聞き取りを重ねた調査報告書が公表され、全文が市のホームページにも掲載された(https://bit.ly/3ZEoP7U)。報告書は「当時の担任の不適切な指導が、自殺に至った男子生徒の抑うつ状態の発症に強く影響した蓋然(がいぜん)性が高い」と総括。自殺との関連性を認め、さらに担任教師による複数の児童らへの体罰や暴言など40件も認定した。

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら
次のページ