エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 SNSに疲れた……けど、もうそれなしでは暮らせない。そんな悩みを抱えている人は少なくないでしょう。私もそうです。手のひらの上の四角い板の中には、世界のニュースだけでなく、お財布や銀行口座など自身の生活に関わる様々な情報が詰まっています。スマホを忘れて家を出た時の心細さといったら! まるで世界から切り離されたみたい。

 今や戦争の強力なツールは、広く一般の人々に対するSNSを用いたプロパガンダです。出どころ不明の虚偽情報や、合成顔写真を用いたbotアカウントの発信を知らずに拡散してしまう。何げなく押した「いいね!」やアカウントのフォローが、何者かに「数」という権力を与え、世界を変えてしまうのです。SNSにつながった瞬間から、誰もがメディア(媒体)です。今この記事にいいね!するか、フォロワーにシェアするかをあなたが決められるということが、あなた自身がメディアであるという証左です。発信者であり、情報の媒介者なのですね。世界の数十億人が。

誰もが発信者の時代。気軽に押した「いいね!」が何者かに権力を与えることがある(写真:gettyimages)
誰もが発信者の時代。気軽に押した「いいね!」が何者かに権力を与えることがある(写真:gettyimages)

 スマホもSNSもほんの20年前にはなかったのに、今やそれ抜きで未来を語ることはできません。手にしたばかりの新しい道具でいわばデジタル人類史の旧石器時代を生きている私たち。「いいね!」ボタンを押す前に、それが世界をどんなものにしてしまうのかを考える習慣が、自分と社会を守ります。

 このほどメディア研究の仲間と出した『いいね!ボタンを押す前に ジェンダーから見るネット空間とメディア』という本では、デジタル原始人である私たちがSNSで傷つかない、傷つけないための基礎知識をわかりやすく解説しています。炎上、差別、メンタルへの悪影響。ネット空間という未開の地で、消費され攻撃され、脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれているのは誰なのか、それは何ゆえかを考察する一冊です。ぜひご一読を。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年1月30日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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