かない・まき/1974年生まれ。TV番組の構成作家・酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーターとして活動を始めた。著書に『パリのすてきなおじさん』『日本に住んでる世界のひと』、共著に『世界のおすもうさん』『戦争とバスタオル』などがある(photo 写真映像部・加藤夏子)
かない・まき/1974年生まれ。TV番組の構成作家・酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーターとして活動を始めた。著書に『パリのすてきなおじさん』『日本に住んでる世界のひと』、共著に『世界のおすもうさん』『戦争とバスタオル』などがある(photo 写真映像部・加藤夏子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】『聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』はこちら

『聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』は、金井真紀さんの著書。世界のサッカースタジアムに集うサポーターたち。贔屓のチームを愛し、熱く応援し、時には暴走する彼らの姿に柔らかなイラストと文章で迫りながら、実は彼らが背負うさまざまな運命や社会の矛盾までを描き出す。番外編としてマレーシアでスタジアムの芝管理をする日本人やJリーグで活躍するアフリカ系選手へのインタビューも。世界への目が開かれる一冊。金井さんに、同書にかける思いを聞いた。

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 始まる前はさほど観戦に乗り気でなかったサッカーW杯。ところが母国の誇りを担った選手たちの戦いにいつの間にか心奪われ、寝不足の日々。そんな折に見つけたのが本書である。金井真紀さん(48)の本はいろいろと読んできた。どれも肩の力が抜けていて、金井さんらしい目の付け所もちゃんとある。その人が世界のサポーターに話を聞くというのだから食指が動いた。実は金井さん、サッカーファンであり、自らフットサルチームでもプレーしてきた「実践(実戦)の人」なのだ。

「はい、それで前歯を折りました(笑)。ヘディングした相手とぶつかりまして。フットサルで知り合ったのがサッカージャーナリストの崎敬さん。彼とはサポーターのバカバカしさを愛でる趣味が一緒で、『世界中のサポーターの話を聞けたらいいね』と話し合っていたんです」

 最初はどこに発表するあてもないまま自腹で取材を始めたが、そのうち「フットボール批評」というマニア向けの雑誌で連載がスタートした。登場するサポーターはイタリアで団地の不良を率いる武闘派・ティノさん、日系移民のクラウジオ遠藤さん、アパルトヘイトの記憶を持つ南アフリカのムティムクールさん、女性が抑圧されているイランの女性サポーター・アスキャリさん、スウェーデンリーグのクルド人チームを応援する移民のフィスリさん、性的少数者のスペイン人サポーター・ラマダさん、車椅子席で鹿島アントラーズの応援を続ける稲田康二さんら実に多彩。チームを愛する喜びに溢れた彼らが一人ひとり背負っている運命、国家や社会の問題などが徐々に明らかになっていく。サッカーのサポーターというフィルターを通してこれほど世界がリアルに見えてくるものかと驚かされる。

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