俳優・歌手 木村拓哉
俳優・歌手 木村拓哉

 1月27日に公開予定の映画「レジェンド&バタフライ」で主演を務める木村拓哉さん。本人曰く「えげつないラブストーリー」になったという、織田信長と濃姫の物語だ。邦画史上最高峰の大作に、どう挑んだのか。AERA 2023年1月23日号から。

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――1998年のドラマ「織田信長 天下を取ったバカ」から25年。満を持して再び織田信長を演じる。

木村拓哉(以下、木村):前回演じたのは25歳ですか。そのときはサブタイトルに「天下を取ったバカ」と書かれていたんですけど、実際の信長は天下も取ってないし、バカでもないんですよね。

 でも、その間違えが許されるのが信長でもある。今回改めて演じてみて、そう感じました。十人十色のイメージを受け入れられるだけの幅の広さがあるというか。おそらく本人は、他人の評価なんて全く気にしない人だと思います。やるべきことの目的を自分で考えられるし、伝統やしきたりであっても「ダサいものはダサい」と言える人。じゃないと、あえて丈の短い袴(はかま)をはいて腰に縄をしめるなんて、普通しませんよね。どこまで自己プロデュースをしていたのかはわかりませんが、相当な“デザイナー”だったと思います。

 一方で、今回は彼の心の底にあったかもしれない弱さや迷いも、演じていて感じられました。信長といえば、「比叡山焼き討ち」など非道なイメージもあります。でも、もし何かが少しでも違っていたら、自国を守るだけで幸せに暮らすこともできたんじゃないかとか、本当は不安だったんじゃないかとか、いろいろ考えました。家臣に皆殺しを命じたときも、「その責任は全て自分にある」と、どこか自虐(じぎゃく)に近い覚悟を俺は感じましたね。

■信長を練り上げたい

――東映創立70周年記念作品である本作は、総製作費20億円の巨費を投じて細部まで徹底的にこだわって制作されている。監督は「るろうに剣心」シリーズの大友啓史、脚本には「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの古沢良太を迎えた。

木村:古沢さんが書いてくださった世界観は脚本を読んですぐ理解できましたし、実際に面白かった。ただ、現場で実際にやってみないとわからないところが多かったのも事実です。脚本で描かれた信長像を一度バツバツに切り崩して、撮影現場で改めて彼を練り上げてみたいという欲求もありました。

 脚本に書かれている言葉に反発する気はないんですよ。ただ、脚本は皆が共有する「地図」なので、そのままだと現場に信長が現れたときに、“一対一”になりづらいなって。なんていうか、脚本だと信長が“でかい”んです。例えるなら、生えている木に対しては人、馬に対しては主人、妻に向き合う夫というように、等身大の人物にしたかった。やっぱり信長は、歴史とともに、皮一枚ずつ偉人のイメージがでかくなっていると思う。それをできるだけ剥ぎ取って、生身の人にしたいなあと思いながら、現場ではやっていました。

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