ミスター武士道さんのYouTubeでは大河ドラマをわかりやすく解説した動画なども人気。家康について書いた著書もあり、今年の大河で家康がどう描かれるか楽しみだという(写真:ミスター武士道さん提供)
ミスター武士道さんのYouTubeでは大河ドラマをわかりやすく解説した動画なども人気。家康について書いた著書もあり、今年の大河で家康がどう描かれるか楽しみだという(写真:ミスター武士道さん提供)

 歴史上の人物の生きざまや逸話。それを自身の指針とする人たちがいる。歴史上の人物こそ、推す対象として理にかなっているという。AERA2023年1月23日号から。

【イラスト】歴史上の人物こそ、推す対象として理にかなっている?

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 戦国時代を生きた武将や女性たちの生きざまを胸に、人生を切り開いてきた人は多い。日本史をわかりやすく解説するYouTubeチャンネル「戦国BANASHI」を運営するミスター武士道さんの「推し武将」は豊臣秀吉だという。武士道さんは19歳のころにお笑い芸人を志して上京したが、挫折。失意のなか、飲食店で働いて食いつないだ。店は都心の名門私大のすぐ近く。アルバイトに来る学生は、実家が裕福で幼少期に海外で生活していたような人ばかりだった。

「『バイトしなきゃ生活できない』なんて人は皆無です。卒業後は有名企業に就職するし、異性にもモテて人生の勝ち組に見えた。実家の違いでこんな差があるなんて、とやり切れない思いを抱え、生活も荒みました」

 再起の力になったのが秀吉の成功譚だ。天下人・秀吉の出自ははっきりしないが、農民か足軽の子とされる。そして、木下藤吉郎を名乗る前の若年時に仕えた松下之綱は今川義元の家臣・飯尾氏の配下。秀吉の覇道は一大名である今川家の陪々臣(家臣の家臣の家臣)から出発した。

「親ガチャとか言って逃げているようじゃダメだと思った。もう一度頑張ろう、昔から好きな歴史、戦国時代をテーマに人生を切り開こうと決意しました」

 2019年に「戦国BANASHI」を開設し、3年あまり。チャンネル登録者は間もなく14万人になる。「天下統一」は遠くても歴史系YouTuberとしては著名で、ファンも多い。いつかはYouTuber初の大河ドラマ出演が目標だ。

「歴史を学ぶことは、自分の『心の援軍』を増やすことだと思う。僕自身、歴史に救われてきました」(武士道さん)

 歴史上の人物の行動や格言を参考にしたり、人生の指針にしたりすることは、「脳科学・心理学的にも理にかなっている」と話すのは、明治大学の堀田秀吾教授だ。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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