発売されたばかりのヘンリー王子の回顧録『スペア』を手にする人/1月10日、ロンドン(写真:AP/アフロ)
発売されたばかりのヘンリー王子の回顧録『スペア』を手にする人/1月10日、ロンドン(写真:AP/アフロ)

 チャールズ英国王の次男ヘンリー王子の回顧録『スペア』が話題を呼んでいる。二番手としての不満や妻への人種差別、生々しい暴露などで注目を集めている。AERA2023年1月23日号の記事を紹介する。

【写真】ヘンリー王子と妻のメーガンさん

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 1月10日に発売されたヘンリー王子(38)の回顧録『スペア』は事前に内容が漏れないよう、米大手出版社ペンギン・ランダムハウスは警備に数億円を費やしたと言われる。中国、スペイン、イタリアなど世界16カ国語での同時発売だった(現在、日本語訳の出版は未定)。

 ところが、発売5日前に漏れてしまった。一つは英ガーディアン紙で、入手手段を明らかにしないまま内容を紹介した。もう一つはスペイン。書店に届いた黒いビニール包みには「1月10日に開けるように」と書かれていたが、梱包(こんぽう)は解かれ店頭に姿を見せた。しばらくすると客の騒ぎに気づいて片づけられたが、すでに英国などのメディアが手に入れた後だった。

 ヘンリー王子とメーガンさん(41)は2020年に王室離脱後、翌年は米国のテレビ司会者、オプラ・ウィンフリーさんのインタビューで、22年12月にはネットフリックスのドキュメンタリー番組で英王室批判を繰り返した。インタビューでは王室内で人種差別されたとほのめかし、ドキュメンタリー番組では、メーガンさんは自分の人気に嫉妬した王室からオオカミの餌にされたと訴えた。

■自己正当化路線は同じ

 しかし、フェイク映像の多用で信憑(しんぴょう)性が疑われ、女王への大げさな礼儀が不快感を呼び、皇太子夫妻の米ボストンでの環境賞授賞式やキャサリン皇太子妃(41)のクリスマス会に予告編や公開日をぶつけて批判が集中した。

『スペア』も自己正当化路線は同じである。王室離脱については、適性や資質から高位ロイヤルとしての責任と義務を果たすことができず外国に逃げたとみなされるのを最も嫌った。むしろ冷淡で無関心な王室の人たち、悪者に仕立てるメディアなどから自分たちを守ったと繰り返す。王室の悪意などを書き連ね、主に米国人の同情を買いたい。王子はスペア(補充要員)に生まれたことでよかったことも多数あっただろうが、それには触れず、後継者の兄の重圧を思いやることもなく、ただ「二番手」であることに不満を言い募る。

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多賀幹子

多賀幹子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など

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