渡邉義孝(わたなべ・よしたか/1966年生まれ。一級建築士、NPO法人尾道空き家再生プロジェクト理事。鈴木喜一建築計画工房を経て風組・渡邉設計室を設立。住宅設計、古民家再生、文化財調査のかたわら、ユーラシア各地の民俗建築フィールドワークを続けている(撮影/写真映像部・加藤夏子)
渡邉義孝(わたなべ・よしたか/1966年生まれ。一級建築士、NPO法人尾道空き家再生プロジェクト理事。鈴木喜一建築計画工房を経て風組・渡邉設計室を設立。住宅設計、古民家再生、文化財調査のかたわら、ユーラシア各地の民俗建築フィールドワークを続けている(撮影/写真映像部・加藤夏子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『台湾日式建築紀行』は、渡邉義孝さんの著書。ノスタルジーとモダンを併せ持つ外観、大胆で遊び心に満ちた意匠、家主の情熱と美学を語る改修の痕跡──「日式建築」は台湾の風土と人々の歴史が刻まれた、貴重な文化だ。建築家ならではのまなざしで描かれたスケッチやイラストをオールカラーで掲載。食べ物や出会った人との交流も。台湾先行出版で話題となった、旅へといざなうフィールドノートだ。渡邉さんに、同書にかける思いを聞いた。

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 尾道で空き家再生プロジェクトにも取り組む一級建築士の渡邉義孝さん(56)は、旅に出ると必ずフィールドノートをまとめてきた。

 本書では最古の都・台南から高雄、西部、最南端と離島、東部、そして首府・台北へ──渡邉さんのイラストと手書き文字で多くの日式建築とディテールが紹介されている。2011年から20年にかけて、18回にわたり台湾を訪れ、建築を訪ねた旅行記だ。

「台湾の日式建築は、広義には『日本統治時代(1895~1945年)の50年間に建てられた建築群』を指します。狭義には『同時期に建てられた洋風・和風または折衷様式など、意匠的・技術的に日本をルーツとする近代建築群』というべきでしょう。日式=和風とは限りません。和・洋から折衷様式まで、日本から移入された近代建築の総体を日式建築と呼んでいます」

 本の冒頭には、台湾の子どもたちに囲まれながらスケッチをする渡邉さんの姿や、使っているノートや画材、文房具の写真も掲載されている。

「私の師である建築家の鈴木喜一先生は紀行作家でもあり、民俗学者・宮本常一に武蔵野美術大学で学んだ『最後の弟子』の世代でした。フォークロア(民俗学)の視点を持つ鈴木先生の建築設計事務所に入ると『1年のうち3カ月は外国を歩いてこい。普通の町や村に行き、人間の生活の営みを見てこい』と言われました。『旅費は出す。ただし毎日1枚の水彩スケッチを描き、帰国したら旅の紀行文をまとめる』のが条件でした」

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