じゃんじゃん「ご愛顧」して新しい風を(イラスト:サヲリブラウン)
じゃんじゃん「ご愛顧」して新しい風を(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 新年あけましておめでとうございます。

 旧年中は大変お世話になりました。本年も変わらぬご愛顧を受け賜りますよう、何卒よろしくお願いいたします。

 さて、この「ご愛顧」という言葉。商いに携わる人なら一度は使ったことがあると思います。厚意や格別の配慮、引き立てを意味しますが、要は「贔屓してくれてありがとう。これからも変わらずに目をかけてください」ってこと。丁寧な言い方ながら、目下の者から目上の者に対する態度としては、なかなか積極的で好感が持てます。

 だってほら、ほかだと「つまらないものですが」など、過度な謙遜やへりくだりをよしとする表現が多いではないですか。そんななか、「これからも積極的に私をかわいがってね」と真正面から言えるフレーズがビジネス用語として汎用されているのは、なんだか愉快です。

 公明正大をよしとしながらも、密かに贔屓されたい気持ちは誰にでもあると思います。目をかけてもらえると、やはりうれしい。頑張らなきゃと奮起もします。依怙贔屓は反感を買うこともあるので迷惑だけれど、期待も込めて誰かに大事にしてもらえるのは心の栄養になります。商売なら、ご贔屓が直接売り上げになるので、なおさらです。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 と同時に、中年にもなると、仕事でいただいたご愛顧を実績できちんと返せているかが問われます。加えて、やや矛盾した表現ではありますが、若者を公正に贔屓し、やりがいを感じるチャンスを与えられるかも問われる。どこからどう考えても、中年って大忙しです。でも、やるんだぜ。

 2023年、私は他者をじゃんじゃん「ご愛顧」していきたいと思っています。私が偶然もらえたようなチャンスを、誰かに与える季節が到来したと肌で感じるのです。

 ヒップホップのスラングに「フックアップ」という言葉があります。名のある人が、無名の誰かを自分が活動する場に紹介することを指します。

 名のある人物だとは思いませんが、おかげ様で私も「場」を持てる状態にはなりました。ここに新しい風を吹かせるのも、私の仕事。時代は刻一刻と変化します。自身を更新していく意味でも、どんどんハイブリッドになっていきたい。

 新年という概念もそうですよね。日常の連続に「元日」という贔屓DAYでひと区切りを入れ、新しい風を吹かせるんですから。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年1月16日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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