集会で演説するトランプ前米大統領=2021年8月、米アラバマ州
集会で演説するトランプ前米大統領=2021年8月、米アラバマ州

 米国では世論が二極化し、欧州では極右政党の台頭も目立つ。戦争やパンデミックを経て、「中道」の声はますます小さくなるのだろうか。AERA 2023年1月16日号の記事を紹介する。

【グラフ】「米国の民主・共和の支持、中道の分布」94年からの変化はこちら

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 2022年11月の米中間選挙。民主・共和両党の接戦ぶりはあらためて米国社会の分断を浮き彫りにした。トランプ氏の政界進出以降、「親トランプ派」と「反トランプ派」の分断が顕在化した米国。その象徴ともされてきたのが、ケーブルテレビのCNNとFOXだ。

 米国政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授は言う。

「トランプ氏の政界進出でニュース産業は総じて潤いました。保守メディアはトランプ氏を応援することで、リベラルメディアはトランプ氏を批判することによって、それぞれ読者や視聴者の増加につなげてきたのが実情です」

 米3大ケーブルニュース局(FOX、CNN、MSNBC)のうち、視聴者数のトップは常にFOXだ。近年はFOXよりさらに右寄りとされるメディアも登場し、陰謀論めいた言論も発信されている。問題は新興の保守メディアにとどまらない。従来メディアも一時、トランプ氏や保守メディアを揶揄するオピニオン番組で視聴率を稼ぐ傾向が見られた。

■「色眼鏡」が一般化

「その急先鋒がCNNでした。『CNNだからトランプ氏を批判している』『FOXだからバイデン氏を批判している』といった具合に、視聴者が色眼鏡でニュースを見るのが一般化し、何が真実かを報道で知るのが困難になりました」

 前嶋教授はこう続ける。

「米国世論が全体的に保守化しているのは間違いありません。しかし、より明白なのは『中道の空洞化』です」

 米国のNPO「ピュー・リサーチ・センター」の分析結果を見ると、1994年と2017年の米国民の政治的立ち位置は大きく異なっていることが分かる=23ページの図。

「94年は平均的な共和党支持者と民主党支持者の政治的立ち位置は、かなり重なっていました。特定の争点に対して、どちらの党の支持者も共通の見方をしていたといえます。しかし、17年の分析結果では、共和党支持者と民主党支持者の政治的立ち位置はまったく分かれ、重なる部分がほとんどありません。民主党はより左に、共和党はより右になり、共通の争点はほぼない。つまり、中道の支持層が消えたということです。この傾向は近年さらに顕著です」(前嶋教授)

 メディアと世論は表裏一体の関係にある。

「中道を受け入れる人がいなければ、メディアはそのゾーンに向けて発信しても仕方がない、ということになります」(同)

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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