書店員 高頭佐和子(たかとう・さわこ)/神奈川県生まれ。都内在勤書店員。「波」「WEB本の雑誌」「小説 トリッパー」などで書評を執筆(写真:本人提供)
書店員 高頭佐和子(たかとう・さわこ)/神奈川県生まれ。都内在勤書店員。「波」「WEB本の雑誌」「小説 トリッパー」などで書評を執筆(写真:本人提供)

 元羊飼い、テレビ局員など、さまざまな経歴を持った作家が増えている。2023年は作家の「個性」にも注目したい。書店員高頭佐和子さんに注目の10人を聞いた。AERA 2023年1月2-9日合併号の記事を紹介する。

【高頭さんが選ぶ10人がこちら】

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 2022年の特徴は、ミステリーに顕著にあらわれたように思います。「え、それってどういうことなの?」というような気持ちを即座に味わえるような作品がヒットし、ちょっと気軽に謎解きを楽しみたいから小説を読むという若い層がとても増えました。

 その一方で、30~40代の女性作家による短編小説も良作に恵まれた年でした。たとえ、短い作品であっても、自分の中の深い部分に切り込んでいくような作品も必要とされているのだなと感じました。23年は、「軽妙」と「濃度」、その両方の傾向がより強くなるのではないかと思います。

 そしてもう一つ大きな流れを感じるのは、さまざまな経歴を持った作家が増えてきているということだと思います。そういう意味でも23年は、作家の「個性」により注目が集まりそうです。

 今回、選んだ10人は個性的な経歴をお持ちの方が多く、小説以外のジャンルでの活動が作品に生かされていると感じています。

 河崎秋子さんは、元羊飼いという大変ユニークな経歴をお持ちです。

 主に北海道を舞台にした小説を書かれていますが、自然や動物と人間の関係についての描写がすばらしいです。登場するのはあくまでも普通の人たちで、スーパーヒーローは存在しません。河崎さんが描く、黙って必死で生きる人たちが放つ輝きのようなものに、すごく励まされるのです。

 第167回(22年上半期)の直木賞候補にもなった『絞め殺しの樹』は、大正時代から現代までを必死で生きた女性の一代記ですし、最新刊の『清浄島』では、エキノコックスがまん延してしまった礼文島を舞台に、感染症に挑む若い研究者の闘いを描きます。彼女が描く、そこで生きる人の覚悟や、自分の人生に与えられる試練をどう乗り越えて、自分の心を保って生きていくのか──というテーマは、多くの人の心に響くのではないでしょうか。

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