メタバースの時代は、日本にもチャンスがある(写真:gettyimages)
メタバースの時代は、日本にもチャンスがある(写真:gettyimages)

 Google、Apple、Facebook、Amazon。最先端技術を駆使し世界経済をリードする米国企業。日本企業に4社の覇権を崩すチャンスはないのか。注目すべき産業や人物とは。益一哉・東京工業大学学長に聞いた。AERA 2023年1月2-9日合併号の記事を紹介する。

【図】益一哉さんが選ぶ10人はこちら

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 日本の製造業はここ30年ほど成長せず日本全体が停滞しました。ですが、実はアメリカの製造業もさほど伸びておらず、実際にGDPを伸ばしていたのはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)でした。メタバース(仮想空間)時代が進むこれからは、このGAFA一人勝ちの構図は崩れると予想しています。そして、日本にチャンスがあると考えています。今後、チャンスはサイバー空間にとどまらないからです。

 2023年以降の社会を考えるうえでのキーワードは、「CPS(サイバーフィジカルシステム)」。Cのサイバーは、インターネットのサイバー空間。Pのフィジカルは、物理的なハードウェアなどの「実際のモノ」を指します。つまり、サイバー空間と現実社会のモノをつなぐということが注目されているのです。CPSを実現した一つが、メタバースです。メタバースで会議を開く会社も出てきましたね。サイバー空間と現実社会をつなぐ技術開発を紹介します。

 仮想空間では「五感」をどう実現するかが注目されています。東京大学の雨宮智浩准教授は、仮想空間で手に物が触れたときの感触をどう伝えるか、VRでの五感の再現に挑戦しています。

 人間の考えを電気信号化する技術も求められています。脳と仮想空間をつなぐインターフェースを作るには、消費電力を抑えつつ、高速で情報処理と予測ができるAIの半導体チップが必要です。東京工業大学の本村真人教授はAIチップの開発に成功しました。新しいインターフェースの誕生に期待します。

 強調したいのは、新しい技術は、さまざまな産業と連携して生まれるということ。コンピューターの放熱によるCO2排出を削減する「グリーン標準化」や「スマートシティ構想」と同様、サイバー空間だけが進化すればいいのではなく、既存の製造業との連携が必要ですから、ごく一部の企業だけで成し遂げるのは難しい。23年は、カリスマの一人勝ちから、さまざまな企業と共存共栄するマインドが注目される一年になると思います。

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