部活動の顧問が部員への暴力で逮捕される事件も目に付く。指導の転換の必要性に気づいてもらうためにも被害者の声は重要だ(photo 写真映像部・東川哲也)
部活動の顧問が部員への暴力で逮捕される事件も目に付く。指導の転換の必要性に気づいてもらうためにも被害者の声は重要だ(photo 写真映像部・東川哲也)

 部活やクラブのスポーツ現場で、指導者の暴力や暴言、ハラスメントが繰り返されている。そうした被害は10代の当時だけでなく、その後の人生に大きな影を落とす。2022年12月26日号の記事を紹介する。

【グラフ】2012年以降体罰を受けた児童生徒数の推移はこちら

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「子どものスポーツでこんなことが起きるなんて。まさに死角でした」

 そう話すのは、首都圏で小学3年生の長男をサッカースクールに入れていたナミさん(以下カタカナは仮名)だ。

 この夏の遠征中に子ども数人が、スクールの運営者とコーチから宿舎でわいせつ動画を見せられ「興奮した?」などとからかわれたことが発覚。他に暴言もあってスクール内で大問題に。長男もそれを知り、精神的に不安定になった。

「性虐待だ」と運営者らに訴えたが、他の保護者は「スクールが無くなったら困る」と、運営者とコーチをかばおうとした。コーチらの指導者資格の有無が不明なうえ、スクールは市区町村のサッカー協会に登録する義務はないため協会には相談できない。結局スクールは解散し代表者とは連絡が取れなくなった。

 長男は日常を取り戻しつつあるが「息子の中でトラウマが消えていないのではないかと不安。だれも責任を取らずチェック機能がない」(ナミさん)。

 不適切指導によるトラウマが消えない現実を語ってくれたのは30代のリカさんだ。関東で小中高と全国レベルのスイマーだった。が、コーチの罵詈雑言(ばりぞうごん)、ビート板やストップウォッチで殴られるなどした。仲間に相談しても「全国大会に行けてるだけマシだ。熱心にみてもらえていいじゃない」と言われた。母親にも暴力を訴えたが「選手になりたいと言ったのはあなたでしょ。最後までやりなさい」と親身になってもらえなかった。

「典型的なスポーツ毒親の母に苦しんできました。大人になって仕事を始めても、自分に自信がないから自分のミスでもないのにすぐに謝ってしまう。水泳が嫌だったという母への叫びを閉じ込めたまま生きてきた」

 18歳でうつ状態に。27歳でうつ病と診断され4種類の薬を飲み続けた。最近になってようやく母親と和解した。それとともに、水をかいても、かいても前に進めない「水泳の悪夢」もみなくなった。

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