W杯カタール大会関連の工事などで亡くなった外国人労働者に対する追悼イベントが11月20日、ドイツで開かれた(picture alliance/アフロ)
W杯カタール大会関連の工事などで亡くなった外国人労働者に対する追悼イベントが11月20日、ドイツで開かれた(picture alliance/アフロ)

 サッカー日本代表の活躍に日本中が盛り上がったワールドカップ(W杯)カタール大会。その陰では、人権問題や環境問題を軽視し、商業主義に突き進む問題を抱えていた。経済思想家・斎藤幸平さんが解説する。2022年12月26日号の記事から。

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 11月18日、ツイッターでW杯は「ボイコットだな。私は観(み)ませんし、(スポンサーの)アディダスもコカコーラも買いません」と宣言しました。理由は三つです。開催国のカタールで外国人労働者に対する人権侵害があること、同性愛が法律で禁止されていること、そして気候危機の問題意識からです。

 カタールは人口約293万人の小さな国です。その国で、収容人数が最大10万人規模のスタジアムが新たに七つ建設されました。雨が降らない酷暑地で天然芝のグラウンドを維持し、有観客で試合をするためにいったいどれだけの資源が使われ、二酸化炭素が排出されたのでしょうか。また、完成までに数百人の労働者が亡くなったとされています。わずか1カ月の金儲(もう)けのために払われた犠牲としては、あまりに大きいでしょう。

 日本-ドイツ戦の試合開始前、ドイツ選手が右手で口を覆うパフォーマンスをしました。多様性や差別撤廃を訴えるキャプテンマークの着用をFIFA(国際サッカー連盟)が認めなかったことに対する抗議です。あの瞬間だけは、カタールの抱える諸問題への関心が一時的に高まりましたが、試合後は「そんなことしているから負けるんだ」とバカにするような日本人サポーターのツイートが目につきました。リスペクトすべき行動が、揶揄(やゆ)する対象になってしまったことは、非常に残念です。

 W杯が盛り上がるほどに、人権問題や環境保護といった重要な課題が不可視化され、商業主義に屈していく。米国の政治学者ジュールズ・ボイコフさんが指摘する「スポーツ・ウォッシング」です。それは日本で特に顕著だったように感じます。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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