柴田洋佐さんが創刊から関わる「シバンス」。コロナ禍によって現在は一時休刊中だが、生活に役立つ情報満載で在住日本人がこぞって読んでいた(写真:柴田洋佐さん提供)
柴田洋佐さんが創刊から関わる「シバンス」。コロナ禍によって現在は一時休刊中だが、生活に役立つ情報満載で在住日本人がこぞって読んでいた(写真:柴田洋佐さん提供)

 世界有数の経済大国・インドで起業する日本人が増えている。ビジネス面では「混沌」のイメージが変わりつつあるという。AERA 2022年12月19日号の記事を紹介する。

【地図】インドの人口、面積、宗教は?

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「めちゃくちゃ快適やないか」

 大阪府出身の柴田洋佐さん(43)は2012年6月、初めてインドを訪れた時、そう思ったという。08年に人材採用コンサルタント会社から独立した後、11年に参画した会社でインド人向けのキャリアセミナーをする機会があった。

「インドの若者はみんな活気があって、まっすぐに夢を語る。課題も多くあるけれど、世の中の空気が前向き。いい意味で期待を裏切られ、この国で仕事をしてみたいと思った」

 13年3月、南部のベンガルール(バンガロール)に移住。在住の日本人向けのフリーペーパー「シバンス」を創刊した。載せたのは、日本食レストランやクラフトビールが飲めるお店、日本人コミュニティーのサークルや病院の情報などだ。

 当初はトラブル続きだった。ページの上下が逆になったまま製本されたり、途中でインクが切れたのか、一部が薄くなった状態で納品されたり。

「毎日、怒鳴ってました(笑)。けれど、インド人スタッフはなぜ僕が毎回同じレベルの高いクオリティーを求めるのかが、そもそも理解できない。読めたらいいじゃん、と。この価値観の違いに気づくのに少し時間がかかりました」(柴田さん)

■増える日本人在住者

 順風満帆とは言えない日々だったが、シバンスの部数は伸び続け、ベンガルールで月3千部に。次いでチェンナイ、デリー、ムンバイでも発行を開始。デリーでは最も多い時で月5千部を発行するまでに成長した。

「年々増える日本人在住者に支えられてきた」

 そう柴田さんが振り返るように、インドで暮らす日本人は増加傾向にある。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、21年10月現在で9313人。新型コロナウイルスの影響で3年前の19年と比べると約10%減だが、11年前の11年10月の5554人と比べるとほぼ倍だ。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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