街を歩けば、そこかしこに躍るキャッチコピーを目にする。私たちは日々、言葉に囲まれて生きている(photo 写真映像部・高野楓菜)
街を歩けば、そこかしこに躍るキャッチコピーを目にする。私たちは日々、言葉に囲まれて生きている(photo 写真映像部・高野楓菜)

 コロナ禍以前なら直接会って話していたような内容を、SNSやメール、チャットツールなどを使ってやり取りする。そんなテキスト・コミュニケーション主流の時代に必要なものは。2022年12月12日号の記事を紹介する。

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 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年以降、社会は急速にテキスト・コミュニケーションの時代に向かっている。SNSの運用だけでなく、これまで直接会って話していた内容をメールでやり取りする機会も増えた。チーム内でのコミュニケーションにはスラックやLINEのようなチャットツールが使われることも多い。「書き言葉」をコントロールすることは、現代人にとって欠かせない能力になっている。

 書き言葉と話し言葉は同じ日本語でありながら、全く違った特徴を持つ。国立国語研究所の石黒圭教授(日本語学・日本語教育学)はこう解説する。

「文字か音声かという違いに加え、『方向性』と『時間』の違いが重要です。話し言葉の典型はキャッチボールのように断片的な短文をやり取りする双方向的なものですが、書き言葉は長い文を計画的に構成するもので一方的な発信に適しています。また、話し言葉の場合5分で話したことは相手も5分かけて聞く、つまり話す時間と聞く時間が同じです。一方、書き言葉だと30分かけて書いたメールでも1分で読めてしまう。かかる時間が非常に偏る特徴があります」

■「打ち言葉」による弊害

 そして、石黒教授はチャットツールやLINEに代表される「打ち言葉」コミュニケーションを書き言葉と話し言葉の中間に位置づける。文字で伝える点は書き言葉と言えるが、双方向のやり取りが行われ、時間差も書き言葉ほど大きくない面は非常に話し言葉的だ。

 さて、書き言葉は話し言葉と比べ、意図を正しく伝えるのが難しい側面がある。表情を読み取れず、相手が理解しているかどうか把握できない。また、不特定多数が読み手となりうるために共通認識となる前提を持ちにくい。だからこそ、書き言葉ではより丁寧な説明が求められてきた。しかし、打ち言葉の隆盛がそんな原則を壊しつつある。石黒教授は続ける。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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