有限会社マヴァリック ネオンベンダー 山本祐一(やまもと・ゆういち)/1972年生まれ、大阪府出身。父のネオンサイン会社で看板製作に携わる。2011年に家業を継ぎ、デザインプロジェクト「oncan」を始動。近年の仕事にNHK「カムカムエヴリバディ」の劇中ネオン製作など(撮影/楠本涼)
有限会社マヴァリック ネオンベンダー 山本祐一(やまもと・ゆういち)/1972年生まれ、大阪府出身。父のネオンサイン会社で看板製作に携わる。2011年に家業を継ぎ、デザインプロジェクト「oncan」を始動。近年の仕事にNHK「カムカムエヴリバディ」の劇中ネオン製作など(撮影/楠本涼)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年12月12日号には有限会社マヴァリックのネオンベンダー・山本祐一さんが登場した。

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 扱うのはネオンの光。ネオンは空気に含まれる希ガスを、真空にしたガラス管に注入し、通電すると発光する。そんなネオン管製作を「安全に光らせるための道筋作り」と言う。

 バーナーで千度以上の熱をあてて柔らかくしたガラス管を素手で曲げる。ガスの通り道を守り、丈夫で美しい形にするにはどこで曲げるかを瞬時に判断。複雑なデザインはリスクが伴うが、実験して作れる方法を考える。ネオン管の可能性を広げたいからだ。

 2011年、LEDの急速な普及で仕事が激減する中で家業を継ぎ、妻と姉の3人で再スタートを切った。

 従来の店舗の看板製作に加え、ネオン管の魅力を伝えようとデザインプロジェクト「oncan」を始動。点ける(on)ことで温感を感じられる(can)ネオンをコンセプトに、室内照明やオブジェなどを製作し、ネオンのある暮らしを提案。繁華街のきらびやかな看板イメージだけではない世界へいざなった。

「ネオン管を生き残らせるには、これしかない」と考え、独自スタイルを貫いたこの10年。手仕事の温もりや、ネオンを生き物のように大切にする心を込めて展開した先で、一点ものの魅力に気づいたり、素材に注目したりする人が増えていった。

 アーティストとの共同製作や、大手百貨店のウィンドーディスプレー、ドラマの舞台装置、音楽アルバムのジャケットロゴなど依頼が多様に広がった。

 技巧的で繊細な作業も増えたが「やっぱりネオンが好き」。出合いは15歳。父が自社でネオン管を製作するのに、米国からネオンアートの第一人者を講師に招いた。

「『光るとこんなにきれい』と見せてもらったのが強く印象に残っています。楽しそうに曲げる姿がかっこよくて」

 あれから35年、気持ちは変わらない。しかし今、業界は希ガス不足に直面している。生産が多いウクライナからの輸入が滞っているからだ。

「うちも在庫がなくなると、どうなるかわからないです。それでSNSを通じたコミュニティーで情報交換しています。僕が15の時に会った講師とも交流できています」

 ネオンをこよなく愛する世界中の人とのつながりが、起伏のある道づくりを照らす。立体的に光を放つネオン管のように、温かく。(ライター・桝郷春美)

AERA 2022年12月12日号