「自分では塗れない」「はがすのは大変」といった「できない理由」を全て排除したいと商品を開発。堀口カストゥリさん(写真:堀口さん提供)
「自分では塗れない」「はがすのは大変」といった「できない理由」を全て排除したいと商品を開発。堀口カストゥリさん(写真:堀口さん提供)

 昨今「推し活」がブームだが、好きなだれか、ではなく、自分を推すのはどうか。"推し"に愛やお金、時間を注ぐように自分を認め、気持ちを高める。その一風変わった方法を紹介する。AERA 2022年12月5日号の記事を紹介する。

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 青森県下北半島の村役場に勤める女性(28)は、年に1回星野リゾート青森屋に泊まることを心から楽しみにしている。

「県内だからこそのノーストレスで、満たされます」

 好きな作家の新刊本を片手に、香り高いコーヒーを飲みながらぼんやり過ごすのは、かけがえのないひとときだ。料理はビュッフェ式というのも、食の好き嫌いが多いこの女性にとってお気に入りの要素。至福の1泊2日が、明日への活力になる。

 好きなだれかを応援する「推し活」もいいが、「自分推し」をあえて意識してみるのはどうだろう? 「『自分推し』は自分への健康的なご褒美」と言うのは、精神科医の宗未来さん。

「喜ぶ力を深め、ありのままの自分自身への肯定感を育むメリットがあります。SNSの影響もあり、現代は承認欲求が強い時代。多少の差はあれ、どの人も認めてもらいたいというのがある。そんな中、ありのままの自分を他者ではなく自分が認めるのは、生物としての本能であり、生きていく上で不可欠です」

「推し」のことを知れば知るほど「推し度」は高まる。その一助になるのではと向かったのは、東京メトロ茅場町駅から徒歩5分、雑貨店「烏゛屋(がらすや)」で行われている「私紋」のワークショップだ。

■ハンコと家紋を融合

 私紋の考案者で、ワークショップを運営するデザイナーの佐藤絵里さんによれば、「私紋は世界で一つだけの自分の分身」。佐藤さんは、あるデザインコンペに出品する準備の過程でハンコについて調べているうち、昔からあるハンコ文化と家紋文化を融合させ、「私紋」を作ってはどうだろう、と考えたという。

「家族や個人の生きるカタチが多様化していますよね。そんな中で、姓や所属する組織など従来のシステムとは関係ないもので自分を表現する。石に刻めば何千年も残る。1千年後とかに『私紋』が掘り返されて、こんな人がいたんだ、と想像してもらえたら面白いなと思っているんです」

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