宇野昌磨(24)/男子1位の合計279.76点で、GPシリーズは2戦とも優勝。SPは2位の91.66点だったが、フリーは1位の188.10点で逆転した
宇野昌磨(24)/男子1位の合計279.76点で、GPシリーズは2戦とも優勝。SPは2位の91.66点だったが、フリーは1位の188.10点で逆転した

 グランプリ(GP)シリーズ第5戦・NHK杯が11月18~20日に札幌で開かれた。男子で宇野昌磨が優勝するなど、日本勢はポスト北京五輪シーズンで活躍を続けている。AERA 2022年12月5日号の記事を紹介する。

【写真】宇野と共にGPファイナル進出を決めた山本草太はこちら

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 激戦の舞台は、1972年札幌五輪が行われた真駒内セキスイハイムアイスアリーナ。雪の予報は雨に変わったものの、冷えた風が選手たちの気持ちを引き締めていた。

 世界王者として臨む宇野昌磨(24)は、自身の内面と闘っていた。会場入り後、4回転フリップに苦戦。靴の状態が原因だったが、道具を言い訳にできず、気持ちのやり場を失った。

「去年と今年にやってきたことのすべてが、自分が求める基準を上げていたので、そこについていけない自分にいら立ちを感じていました」

 するとショートプログラム(SP)の公式練習後、ステファン・ランビエルコーチから、こう声をかけられた。

「完璧を求めすぎないで。完璧というのは、一つ一つやっていった先に待っているもので、目指すものではないんだよ」

 胸に刺さった。

「その言葉一つでスケートと再び向き合うことができました。このまま本番をやったら、練習を無に返すところでした。今やれることをやるしかないんです」

■「キャリアの賜物です」

 迎えたSP本番、冒頭で美しい4回転フリップを降りる。

「この会場に来てから、あんなフリップ、一度も跳んでない。スケートキャリアの賜物(たまもの)です」

 キャリアが勝負強さにつながったかと問われると、否定した。

「僕はフワッとしたものが好きじゃなくて、勝負強さはただ運が良いだけ。僕は練習してきたことを試合でこなしたい。長年の練習が出たのだと思います」

「今やれる最大限を」という覚悟はフリーの6分間練習でも表れた。4回転トーループを1本跳んで失敗すると、左足を使うジャンプを跳ばずに練習を終えたのだ。こう説明する。

「最初の失敗で『左足のエッジの位置が違う』と思って、5番目の滑走なので、待つ間に位置を調整しようと思いました」

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